砦の中は、お祭騒ぎである。ファリドゥン王が凱旋して来たのだ。北方で暴れ回っていた三頭の怪獣のダハーカを倒したというのだから、まさに英雄であった。ファリドゥン王は凱旋パレードの後、宮殿に戻り、真っ先にマツダのところにやって来た。
「マツダさま、ありがとうございました。お陰さまで怪獣を仕留めることができました」
「それは、良かった。お役に立てれば嬉しいです」
「それでは、お借りしたレーザーガンをお返しいたします」
「いや、ファリドゥン王、あなたのような立派な方なら心配はありません。どうぞそのままお持ちくださって結構です」
「そうですか、それはありがたい。こんなすごい武器をお授けくださるなんて、なんと言ってお礼申し上げていいやら」
「いえいえ、こちらこそ、これまでずい分お世話になっていますから」
「アリマさま、ミソラさま、今頃どうなさっていらっしゃることでしょうか」
「あれ以来、音信不通です。でも、彼らのことですから心配には及ばないでしょう」
「アリマさま、ミソラさま、もちろん彼らのことは心配しておりません。ただ・・・」
「ただ?どうしたのですか?」
「あの人たちもマツダさまと同じように、神の力をお持ちになっていらっしゃいます・・・」
「ああ、そうか、彼らの他国への援助を心配されているのですね?」
「正直なところそうなんです」
「ミソラさんは、西に行き、メディアに向かえ入れられたようですが、その後は分かりません」
「そこなんです。メディアは私たちの敵のような存在です」
「それならご心配いりません。ミソラさんは、決して悪いことをするような人ではないし、悪いことに加担することは絶対にないでしょう」
「悪いことですか・・・」
「他国を攻撃し、多くの人々を殺すなんてまさに悪といえるでしょう」
「・・・・」
「ああ、ファリドゥン王、あなたはこれからの南下計画のことを気にしておられるのですね」
「正直な話、そういうことです」
「敵として全部を打倒することはありません。まず話し合い、説得する。そしてそれに従わない王たちをやっつけることは仕方がないとしても、人々まで犠牲にすることはありません」
「私とて戦いを求めているものではありません」
「圧政に苦しむ人々の解放、これは良いことです」
「マツダさまにそうおっしゃっていただければ、鬼に金棒、いや王にレーザーガンです」
「あはは、レーザーガンは単なる武器です。武器では人々の心は掌握できますまい」
「そのとおりです」
今やマツダの地位は、王の相談役以上のものだった。そして人民は神様だと考え敬意を表していた。そもそもは、アリマとミソラ、不時着により三人でこの地に現れたのだが、シェルターを個別に用意できるようになってから、三人はそれぞれの道を歩むようになったのだった。
帰還の希望があれば、話は違っただろう。しかし、三人の力を合わせても、なお、不時着した宇宙船の修理はほとんど不可能だったのだ。
マツダは考えている。なぜ、ミソラが去ったのか、そしてアリマまで・・・ 帰還の希望がなくなったということは一つの大きな要因であり、それぞれの考え方の違いも大きな問題であった。個人用のシェルターを作るまでは、ほとんど一心同体で活動していたのだが・・・
そんなことを考えていると、突然爆音が聴こえて来た。現地人の生活を考えると、爆音なんてナンを焼く釜がある台所くらいしか考えられない。しかし、爆音は次々に聴こえる。マツダは嫌な予感がした。まさか・・・
マツダの部屋にソーマが駆け込んで来た。
「マツダさま、大変です。北方民族が攻撃して来ました」
「あの爆音はなんだ?」
「分かりません。みたこともないものです」
「みたこともない?」
「空から玉が落ちて来て爆発するのです」
マツダは、大砲などいう原始的な武器は書物でしか知らないものであったが、どうやらそういうもののようだ。マツダの部屋が轟音とともに揺れた。ソーマは震えている。
「マツダさま、どうしましょうか?」
「ファリドゥン王はどうされているのか?」
「敵を迎え撃とうとしています」
「私は様子を見て来る」
マツダは、スライダーをシェルターから取り出し、部屋から外に出た。庭にはいくつもの穴があり、白煙が上がっている。そして、マツダの直ぐ上の建物の一角が大きな爆音とともに崩れて来た。マツダは急いでスライダーに乗った。スライダーはぐんぐん上昇して行き、砦の北側に北方民族の軍団を見ることができた。
確かに彼らは大砲で攻撃して来ている。かなり原始的な武器のようで、砲弾の動きがはっきりと見える。その背後には騎馬軍団が整列して総攻撃に備えているようだ。原始的な武器とはいえ、刀か槍くらいしか持っていない現地人である。火薬を使った武器には度肝を抜かれているようだ。
マツダがスライダーで空から敵の軍団に接近すると、敵の大将らしき人が見えて来た。鎧の上に毛皮をつけている。敵の兵隊がマツダを発見したようだ。スライダーで飛ぶマツダを見ても驚いた様子はない。弓を持った兵隊が打ち落とそうとしている。もちろん、マツダは弓が届くように距離までは接近しない。
硝煙ではっきりとは見えないが、大砲は10基くらいあるようだ。かなり原始的な大砲のようで、一発撃つと次の一発まではかなり時間がかかるようだ。マツダは北方民族の軍隊の様子をファリドゥン王に急いで伝えなければいけないと思った。早くしないと、騎馬軍団による総攻撃が開始されるだろう。
白煙の上がる砦に急いで戻ると、砦の中はパニック状態であった。砲撃という見たことも聞いたこともない攻撃を受けたのだ、冷静でいられる人などいるはずがない。赤いマントを着たファリドゥン王は直ぐにみつけることができた。砦の塔の陰に身を隠していた。しかし、その顔は蒼白であった。
「ファリドゥン王、大丈夫ですか?」
「うう、マツダさま、これはいったいどうしたことでしょうか?」
「敵は大砲という武器を使っています」
「タ・イ・ホ・ウですか?」
「そうです。遠くから撃って、玉が落下したところで爆発する」
「恐ろしい武器だ」
「敵はもう直ぐ騎馬軍団による総攻撃をかけてくるでしょう」
「そうか、我が軍は浮き足立っているから、今攻撃されたら総崩れになってしまう」
「では、王は南に逃げてください。私はなんとか彼らを引き止めてみます」
「そうか、ありがたい。では、お預かりしていたレーザーガンをお返しする」
ファリドゥン王の逃げ足は速い。手勢を率いて、あっと言う間に南の出口から馬で脱出した。マツダは、どうしたら敵の軍団を止めることができるか思案した。マツダにあるのはスライダーくらいなもの、再び空から敵の様子を観察することにした。
敵の砲撃は、連射というには間が空き過ぎているが、続けられている。どうやら、砦の入り口に狙いをつけているようだ。しかし、原始的な大砲のせいか、なかなか当たらない。
マツダは一計を案じた。ファリドゥン王の部下たちに援護させ、スライダーを使って敵の砲弾を集積してあるところに接近し、レーザーガンで爆発させればいい。これなら砲撃を止められる。しかし、スライダーでどうやって砲弾のあるところまで接近すればいいのか・・・
マツダはファリドゥン王の精鋭部隊に作戦を伝えた。マツダの指令は絶対である。なにしろ神様からの指令なのだ。ファリドゥン王の命令よりも強力かも知れない。精鋭部隊はいくつかのグループに分かれ、陽動作戦の開始であった。
東門から騎馬による精鋭部隊が飛び出して行った。北方民族の弓部隊が矢を射る。騎馬軍団は、その攻撃の後に迎え打ちに来るだろう。マツダはひっそりと様子を見ていた。マツダの狙いをつけたのは、手薄になった左端の大砲であった。砲弾がその後方の馬車に積まれている。
陽動作戦で、敵軍の注意が向けられているその隙をついて、マツダは左端の砲弾が積まれている馬車に接近した。そして、直ぐに高熱のビームを持つレーザーガンを使った。高熱のビームの受けた砲弾はたちまち爆発した。
その結果は、予想以上の派手なものになった。落とした砲弾が爆発し、積まれていた砲弾を四方八方に飛ばしたのだから大変なことになった。砲弾が積まれていたところが順々に爆発し始めたのだ。今は、敵軍の前面が総崩れの状態になった。
しかし、それはつかの間の混乱でしかなかった。北方民族の軍団は大勢であった。大爆発の混乱が収まると、後方に引いていた騎馬軍団が総攻撃を開始した。大砲による攻撃は彼らにとっても馴れないことのようで、ようやく従来の戦い方に戻ったことから、むしろ活き活きとしてきたようにみえた。
マツダがスライダーを旋回させて、砦に一旦戻ろうとしたとき、突然もう一台のスライダーが現れた。そして、そこから発射されたレーザービームがマツダの体を貫いた。マツダとスライダーは砦の中へ墜落していった。
「やはり、アリマだったんだな」
「悪いな、マツダ。所詮、俺たちは一緒にはやっていけなかったようだ」
「うう、一体何を企てているのだ。ここの人々を不幸にしてどうするというのだ?」
「不幸かどうかは、歴史が証明するさ」
「いや、おまえのやっていることは悪だ」
「善だの悪だの、そんなものは時代によって変るものだ」
「人殺しは絶対悪だ」
「そうかな。邪魔者は消す。それは理に適っているというものさ」
こうして、ファリドゥン王の砦は、アリマを王とする北方民族の手に落ちた。そして、このことはファリドゥン王も知るところとなった。
「ああ、マツダさま、いや、アフラ・マツダさま。御身を犠牲にしてまで・・・」
「あのアリマというやつ、今はアーリマンと呼ばれ、悪魔とも魔の中の魔とも呼ばれています」
「アフラ・マツダさまとは大違いだ」
「アーリマンは、死、虚偽、凶暴などの全ての悪を司ると言われています」
「目的のためには手段を選ばないというのだろう・・・」
「あの三頭の怪獣だってアーリマンの創造したもののようです」
「恐ろしい敵よのう・・・」
「どうしましょうか?」
「こうなっては、ミソラさまにすがるしかないようだ」
「あのミソラさまでアーリマンに対抗できるものでしょうか?」
「他に対抗手段がないだろう・・・」
「おっしゃるとおりで」
「では、ソーマ、お前が使者になってエクバタナ(メディア王国の首都)に向かえ!」
「御意」
「私は、アフラ・マツダさまの志を引き継ぎ、法による秩序を求めようと思う」
一方、マディア王国では、ミソラの目指したことは実を結びつつあるようで、王国は平和で繁栄していた。人々は、ミソラの教えをミソラ教として受け入れ、メディア王国の王もミソラを神として接待した。ミソラのことは、人々はアフラ・ミソラと呼んだ。厳密に言うと、現地の人たちの間では、ミトラ教、そしてアフラ・ミトラと発音された。
ファリドゥン王の使いのソーマから話を聞いたミソラは、マツダの死を大いに悲しんだ。そして、アリマの行いに対する怒りは激しいもので、アリマ打倒へと準備を開始することを誓ったのだった。ミソラがソーマから話を聞いたときには、メディア王国に対して戦争に関することについては何一つ教示しなかったのだが、もはや事情が変ったのである。
数年後、ミソラはメディア軍を率い、恐ろしい敵であるアーリマンの悪魔軍団を殲滅した。アーリマンは死してもなお、大魔王アーリマンとして存在しているという。
★
夢から覚めた平山は、夢とはいえ、主人公らしいマツダが死んでしまったことが不思議でならなかった。小説などでは主人公が死んでしまうなんて考えられないことだ。夢だからこそ、脈絡も論理もないのだろうと思った。
(つづく)
(注)こちらはフィクションですから人名など実在するものとは一切関係ありません。
「マツダさま、ありがとうございました。お陰さまで怪獣を仕留めることができました」
「それは、良かった。お役に立てれば嬉しいです」
「それでは、お借りしたレーザーガンをお返しいたします」
「いや、ファリドゥン王、あなたのような立派な方なら心配はありません。どうぞそのままお持ちくださって結構です」
「そうですか、それはありがたい。こんなすごい武器をお授けくださるなんて、なんと言ってお礼申し上げていいやら」
「いえいえ、こちらこそ、これまでずい分お世話になっていますから」
「アリマさま、ミソラさま、今頃どうなさっていらっしゃることでしょうか」
「あれ以来、音信不通です。でも、彼らのことですから心配には及ばないでしょう」
「アリマさま、ミソラさま、もちろん彼らのことは心配しておりません。ただ・・・」
「ただ?どうしたのですか?」
「あの人たちもマツダさまと同じように、神の力をお持ちになっていらっしゃいます・・・」
「ああ、そうか、彼らの他国への援助を心配されているのですね?」
「正直なところそうなんです」
「ミソラさんは、西に行き、メディアに向かえ入れられたようですが、その後は分かりません」
「そこなんです。メディアは私たちの敵のような存在です」
「それならご心配いりません。ミソラさんは、決して悪いことをするような人ではないし、悪いことに加担することは絶対にないでしょう」
「悪いことですか・・・」
「他国を攻撃し、多くの人々を殺すなんてまさに悪といえるでしょう」
「・・・・」
「ああ、ファリドゥン王、あなたはこれからの南下計画のことを気にしておられるのですね」
「正直な話、そういうことです」
「敵として全部を打倒することはありません。まず話し合い、説得する。そしてそれに従わない王たちをやっつけることは仕方がないとしても、人々まで犠牲にすることはありません」
「私とて戦いを求めているものではありません」
「圧政に苦しむ人々の解放、これは良いことです」
「マツダさまにそうおっしゃっていただければ、鬼に金棒、いや王にレーザーガンです」
「あはは、レーザーガンは単なる武器です。武器では人々の心は掌握できますまい」
「そのとおりです」
今やマツダの地位は、王の相談役以上のものだった。そして人民は神様だと考え敬意を表していた。そもそもは、アリマとミソラ、不時着により三人でこの地に現れたのだが、シェルターを個別に用意できるようになってから、三人はそれぞれの道を歩むようになったのだった。
帰還の希望があれば、話は違っただろう。しかし、三人の力を合わせても、なお、不時着した宇宙船の修理はほとんど不可能だったのだ。
マツダは考えている。なぜ、ミソラが去ったのか、そしてアリマまで・・・ 帰還の希望がなくなったということは一つの大きな要因であり、それぞれの考え方の違いも大きな問題であった。個人用のシェルターを作るまでは、ほとんど一心同体で活動していたのだが・・・
そんなことを考えていると、突然爆音が聴こえて来た。現地人の生活を考えると、爆音なんてナンを焼く釜がある台所くらいしか考えられない。しかし、爆音は次々に聴こえる。マツダは嫌な予感がした。まさか・・・
マツダの部屋にソーマが駆け込んで来た。
「マツダさま、大変です。北方民族が攻撃して来ました」
「あの爆音はなんだ?」
「分かりません。みたこともないものです」
「みたこともない?」
「空から玉が落ちて来て爆発するのです」
マツダは、大砲などいう原始的な武器は書物でしか知らないものであったが、どうやらそういうもののようだ。マツダの部屋が轟音とともに揺れた。ソーマは震えている。
「マツダさま、どうしましょうか?」
「ファリドゥン王はどうされているのか?」
「敵を迎え撃とうとしています」
「私は様子を見て来る」
マツダは、スライダーをシェルターから取り出し、部屋から外に出た。庭にはいくつもの穴があり、白煙が上がっている。そして、マツダの直ぐ上の建物の一角が大きな爆音とともに崩れて来た。マツダは急いでスライダーに乗った。スライダーはぐんぐん上昇して行き、砦の北側に北方民族の軍団を見ることができた。
確かに彼らは大砲で攻撃して来ている。かなり原始的な武器のようで、砲弾の動きがはっきりと見える。その背後には騎馬軍団が整列して総攻撃に備えているようだ。原始的な武器とはいえ、刀か槍くらいしか持っていない現地人である。火薬を使った武器には度肝を抜かれているようだ。
マツダがスライダーで空から敵の軍団に接近すると、敵の大将らしき人が見えて来た。鎧の上に毛皮をつけている。敵の兵隊がマツダを発見したようだ。スライダーで飛ぶマツダを見ても驚いた様子はない。弓を持った兵隊が打ち落とそうとしている。もちろん、マツダは弓が届くように距離までは接近しない。
硝煙ではっきりとは見えないが、大砲は10基くらいあるようだ。かなり原始的な大砲のようで、一発撃つと次の一発まではかなり時間がかかるようだ。マツダは北方民族の軍隊の様子をファリドゥン王に急いで伝えなければいけないと思った。早くしないと、騎馬軍団による総攻撃が開始されるだろう。
白煙の上がる砦に急いで戻ると、砦の中はパニック状態であった。砲撃という見たことも聞いたこともない攻撃を受けたのだ、冷静でいられる人などいるはずがない。赤いマントを着たファリドゥン王は直ぐにみつけることができた。砦の塔の陰に身を隠していた。しかし、その顔は蒼白であった。
「ファリドゥン王、大丈夫ですか?」
「うう、マツダさま、これはいったいどうしたことでしょうか?」
「敵は大砲という武器を使っています」
「タ・イ・ホ・ウですか?」
「そうです。遠くから撃って、玉が落下したところで爆発する」
「恐ろしい武器だ」
「敵はもう直ぐ騎馬軍団による総攻撃をかけてくるでしょう」
「そうか、我が軍は浮き足立っているから、今攻撃されたら総崩れになってしまう」
「では、王は南に逃げてください。私はなんとか彼らを引き止めてみます」
「そうか、ありがたい。では、お預かりしていたレーザーガンをお返しする」
ファリドゥン王の逃げ足は速い。手勢を率いて、あっと言う間に南の出口から馬で脱出した。マツダは、どうしたら敵の軍団を止めることができるか思案した。マツダにあるのはスライダーくらいなもの、再び空から敵の様子を観察することにした。
敵の砲撃は、連射というには間が空き過ぎているが、続けられている。どうやら、砦の入り口に狙いをつけているようだ。しかし、原始的な大砲のせいか、なかなか当たらない。
マツダは一計を案じた。ファリドゥン王の部下たちに援護させ、スライダーを使って敵の砲弾を集積してあるところに接近し、レーザーガンで爆発させればいい。これなら砲撃を止められる。しかし、スライダーでどうやって砲弾のあるところまで接近すればいいのか・・・
マツダはファリドゥン王の精鋭部隊に作戦を伝えた。マツダの指令は絶対である。なにしろ神様からの指令なのだ。ファリドゥン王の命令よりも強力かも知れない。精鋭部隊はいくつかのグループに分かれ、陽動作戦の開始であった。
東門から騎馬による精鋭部隊が飛び出して行った。北方民族の弓部隊が矢を射る。騎馬軍団は、その攻撃の後に迎え打ちに来るだろう。マツダはひっそりと様子を見ていた。マツダの狙いをつけたのは、手薄になった左端の大砲であった。砲弾がその後方の馬車に積まれている。
陽動作戦で、敵軍の注意が向けられているその隙をついて、マツダは左端の砲弾が積まれている馬車に接近した。そして、直ぐに高熱のビームを持つレーザーガンを使った。高熱のビームの受けた砲弾はたちまち爆発した。
その結果は、予想以上の派手なものになった。落とした砲弾が爆発し、積まれていた砲弾を四方八方に飛ばしたのだから大変なことになった。砲弾が積まれていたところが順々に爆発し始めたのだ。今は、敵軍の前面が総崩れの状態になった。
しかし、それはつかの間の混乱でしかなかった。北方民族の軍団は大勢であった。大爆発の混乱が収まると、後方に引いていた騎馬軍団が総攻撃を開始した。大砲による攻撃は彼らにとっても馴れないことのようで、ようやく従来の戦い方に戻ったことから、むしろ活き活きとしてきたようにみえた。
マツダがスライダーを旋回させて、砦に一旦戻ろうとしたとき、突然もう一台のスライダーが現れた。そして、そこから発射されたレーザービームがマツダの体を貫いた。マツダとスライダーは砦の中へ墜落していった。
「やはり、アリマだったんだな」
「悪いな、マツダ。所詮、俺たちは一緒にはやっていけなかったようだ」
「うう、一体何を企てているのだ。ここの人々を不幸にしてどうするというのだ?」
「不幸かどうかは、歴史が証明するさ」
「いや、おまえのやっていることは悪だ」
「善だの悪だの、そんなものは時代によって変るものだ」
「人殺しは絶対悪だ」
「そうかな。邪魔者は消す。それは理に適っているというものさ」
こうして、ファリドゥン王の砦は、アリマを王とする北方民族の手に落ちた。そして、このことはファリドゥン王も知るところとなった。
「ああ、マツダさま、いや、アフラ・マツダさま。御身を犠牲にしてまで・・・」
「あのアリマというやつ、今はアーリマンと呼ばれ、悪魔とも魔の中の魔とも呼ばれています」
「アフラ・マツダさまとは大違いだ」
「アーリマンは、死、虚偽、凶暴などの全ての悪を司ると言われています」
「目的のためには手段を選ばないというのだろう・・・」
「あの三頭の怪獣だってアーリマンの創造したもののようです」
「恐ろしい敵よのう・・・」
「どうしましょうか?」
「こうなっては、ミソラさまにすがるしかないようだ」
「あのミソラさまでアーリマンに対抗できるものでしょうか?」
「他に対抗手段がないだろう・・・」
「おっしゃるとおりで」
「では、ソーマ、お前が使者になってエクバタナ(メディア王国の首都)に向かえ!」
「御意」
「私は、アフラ・マツダさまの志を引き継ぎ、法による秩序を求めようと思う」
一方、マディア王国では、ミソラの目指したことは実を結びつつあるようで、王国は平和で繁栄していた。人々は、ミソラの教えをミソラ教として受け入れ、メディア王国の王もミソラを神として接待した。ミソラのことは、人々はアフラ・ミソラと呼んだ。厳密に言うと、現地の人たちの間では、ミトラ教、そしてアフラ・ミトラと発音された。
ファリドゥン王の使いのソーマから話を聞いたミソラは、マツダの死を大いに悲しんだ。そして、アリマの行いに対する怒りは激しいもので、アリマ打倒へと準備を開始することを誓ったのだった。ミソラがソーマから話を聞いたときには、メディア王国に対して戦争に関することについては何一つ教示しなかったのだが、もはや事情が変ったのである。
数年後、ミソラはメディア軍を率い、恐ろしい敵であるアーリマンの悪魔軍団を殲滅した。アーリマンは死してもなお、大魔王アーリマンとして存在しているという。
★
夢から覚めた平山は、夢とはいえ、主人公らしいマツダが死んでしまったことが不思議でならなかった。小説などでは主人公が死んでしまうなんて考えられないことだ。夢だからこそ、脈絡も論理もないのだろうと思った。
(つづく)
(注)こちらはフィクションですから人名など実在するものとは一切関係ありません。
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by eldamapersia
| 2007-10-03 18:00
| 遥かなる遺産 Part2