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イラン在住4年間の写真集とイランを舞台にした小説です。


by EldamaPersia

星の砂漠・・・体験記

月の砂漠に憧れて、初めて無人の砂漠に行ったのは、2年前の9月10日、11日でした。今年もほとんど同じ時期になりました。その理由は、8月だと暑すぎるし、もっと遅くなると、夜の砂漠が寒いという理由によるものです。

今回もテヘランから日産パトロールの四輪駆動車をチャーターして出掛けることにしました。砂漠の近くの町カシャーンで四駆をレンタルする手もあるでしょうが、現地で四駆をレンタルすることはなかなか難しいようでテヘランから運転手ごとレンタルになりました。

今年はなぜか四駆のレンタルが難しかったようで、冷房なしの四駆でした。すっかり秋らしくなったので走行中はそれほど暑さは気になりません。気温としては35度くらいありますが、乾燥しているので暑く感じないのです。髪の毛が入ってくる風に当たり、とんでもない格好になりますが、まぁ、そんなことはたいした問題ではないということで・・・

出発は私のアパートを午後12時でした。木曜日は日本で言えば土曜日のようなものです。テヘランの渋滞を抜けるのに1時間も掛かってしまいました。しかも、途中でレンタカーの調子が悪くなり、何回も停止する始末です。どうやら、オイルフィルターに問題があるようです。前日にも日本人のご夫婦を案内して砂漠に行ったそうで、その後遺症のようです。

運転手は人の良さそうな若者だったので、日ごろのメンテナンスが悪いなんて非難する気にもならず、まぁ、いっかという具合でした。見るからに性格がいいという印象だとこういう時に得ですね。そんなことで宿泊予定のカシャーンに着いたのはもう午後4時を過ぎていました。

私のアパートからはビールやらウオッカなどをアイスボックスに入れて持参していますが、その他の必要なものはカシャーンで仕入れます。氷、冷凍チキンケバブ、ケバブ用の串、ケバブ用炭焼きセット、メロン、ジュース、ミネラル・ウォーターなどなど。いつもはホテルで炭焼きセットが借りられるのですが、この日はダメでした。

ブリキ製の炭火焼きセットなどどうせ買っても金額が知れているので、すべてを買うことにします。炭と炭に点火するための燃料用アルコールも買いました。そんなことをしているうちにどんどん日が暮れていきます。砂漠のある地域に着いた頃にはすっかり暗くなっていました。

キャンプをするのに相応しい場所を探すのにしばらく四駆で走行しましたが、砂地なので四駆でないと走行不可能というような場所も通過しました。途中で何回もラクダの群れに遭遇しましたが、ラクダの強烈な臭いには閉口しました。

キャンプ地の適当な場所がみつからないうちにすっかり日が暮れてしまいました。四駆はパンクまでするし、困ったものです。ともあれ、真っ暗では砂漠の様子もなにもあったものではありません。適当なキャンプ地を探して早速準備です。月齢5日の月がまだ西の空にありました。

5日の月と言ってもその月明かりは結構明るく、星空を観察するには月が地平線に沈むのを待たなければなりません。月の照明でケバブの準備には丁度良かったとは思います。イラン人はなにも照明器具を持っていないので、私が持参した懐中電灯が役に立ちました。イラン人というのは準備が悪いのかな、あるいはなくても暗闇で目が効くのかも知れません。

ケバブの準備は順調に進んでいます。私はビールを飲んで、砂漠の雰囲気に浸っています。炭火が早くも万遍なく点火されているのには驚きました。さすがに手馴れたものです。私は200mmの望遠レンズで月の写真撮影を試みるなどやっていました。

月の写真というのは思うようには撮れないもので、その理由は大気の揺らぎに原因があります。高速でシャッターを切ると却ってボケるのです。むしろゆっくりシャッターを切って大気の揺らぎが平均的になってボケが相殺されるような露出時間を与えないといけません。200mm程度の望遠ですから、それほど神経は使わなくてもいいのですけど、本格的望遠鏡を使用した場合には要注意です。

ケバブが出来上がる頃、月が地平線に近くなって行きました。月が時折雲に隠れると空には天の川が流れているのがよく見られました。星月夜という言葉がありますが、これは星だけの夜という意味です。星だけの夜空は決して真っ暗ではありません。だから、星月夜という言い方になるのでしょう。

ケバブを食べて月の沈むのを待ちます。イラン人たちは楽しそうにおしゃべりをしていますが、何を話ししているのか私にはさっぱり分かりません。ビールなど遠慮して飲まないのかと思ったら、そんな心配はまったく無用なようで、暗くなるにつれどんどん飲んでいました。

やがて、月が沈むとそれまでは目立たなかったカシャーンの町の明かりが気になってきます。カシャーンの町から約50kmは移動して来ていると思うのですが、それでも町の明かりは無視できないものでした。途中にあったキャラバン・サライ(隊商宿)の明かりは見えていても、空を照らすほどのものではありません。

町の明かりの上には、南西の夜空にはサソリ座が浮かんでいます。サソリの心臓の辺りには赤い一等星のアンターレスが輝いています。この星座ほど対象の動物をちゃんとイメージできる星座はないでしょう。まさにサソリに見えます。サソリ座とカシャーンの町明かりの写真をアップしました。(分かりやすいように星座に線を入れておきました。画面左上のぼやっとしたものは天の川の一部です。)
星の砂漠・・・体験記_e0031500_034229.jpg

サソリ座からやや東、南天の空に目を転じると、そこには射手座があります。馬に乗った射手がサソリの心臓を狙っていると言われています。星座からは射手の姿をイメージすることはできませんが、射手座の方向は私たちの所属する銀河の中心方向なのです。ですから、天の川と呼ばれる銀河が一番明るく輝いて見えます。

天の川の輝きは一様ではなく、暗黒星雲に遮られているため、模様があります。砂漠から見る天の川にはその模様がはっきりと現れています。9月9日付けで天の川の写真をアップしましたが、ぼんやりとした天の川ですが、暗黒星雲が確認できるでしょう。

射手座から天の川に沿って天頂の方向に視線を動かすと、織姫、牽牛(彦星)で有名な琴座と鷲座が天の川をはさんで輝いています。織姫は琴座の一等星のヴェガ、牽牛は鷲座の一等星のアルタイルです。その二つの一等星にもう一つ白鳥座の一等星のデネブを加えると有名な夏の大三角形ができます。

白鳥座も白鳥の形を想像しやすい星座です。十文字に見えますが、一番明るい星のデネブは尻尾にあたります。嘴のところにある星はアルビレオと言い、金色と青色の二重星です。残念ながら望遠鏡を使わないと二つの星とは判別できませんけどね。

さらに目を北に転じると、北極星、そしてその周りの小熊座、有名な大熊座がはっきりと見えます。北極星は二等星で東京の空では二等星を確認することも難しいでしょう。北極星を含んだ小熊座を確認するためには少し都市部から離れないといけません。

ルーマニアのドナウデルタで見た北極星の周囲と同じくらいの星の数です。もともと北極星の周辺は星が少なく寂しいのですが、これほどの星の数というのは関東周辺では長野県の高地で眺められるくらいでしょう。日本の場合、天候に恵まれないといけないので、一晩の宿泊では運不運ということになってしまいます。イランでは雲すらほとんどありませんから、天候の心配をする必要がないのが幸いです。

北極星探しに使われる大熊座ですが、形からは大熊の想像はできません。しかし、その形は柄杓(ひしゃく)と言われ、認識しやすいので重宝なものです。北極星に対して大熊座の反対方向にはカシオペア座があり、こちらからも北極星を探すことができます。その両方の星座が同時に見られるというのも砂漠ならではでしょう。地平線近くまで星がくっきりと見えています。(分かりやすいように星座に線を入れておきました。)
星の砂漠・・・体験記_e0031500_042667.jpg

天頂から西の方向にはヘルクレス座があります。ちょっと歪んだ”H”型ですが、こちらも認識しやすい星座です。その西側にある牛飼座の一等星、アークチュルスが西の地平線に近づく頃、東側には秋の星座が上って来ます。馬の形のペガスス座、カシオペア座を追いかけるようにペルセウス座が見えてきます。

ペガススとペルセウスとの間辺りには私たちの銀河系の兄弟であるアンドロメダ小宇宙があります。目が良ければ月と同じくらいの大きさに見えるのですが、眼鏡のレンズを通すと残念ながらほとんど確認できませんでした。高校生の頃が一番良かったと思います。

夜も更け、ビールで足らなくなった私たちはウォッカの1リットルを飲んでいます。コーラで割ったり、セブンアップで割ったり、イランの友人には上質のウォッカのようで、どんどんなくなって行きます。ウォッカはアブソルート・ウォッカですから、品質的には悪いものではありません。

砂漠の峰からスバル(昴)が上がって来ました。スバルは日本語ですから、天文用語ではプレアデス散開星団といいます。青白い若い星たちの集まりです。まぁ、そんなことはともかく、宴もたけなわ、さらば~スバルよ~♪という世界です。^^

親友のイラン人と一緒に空を眺めているときに2つの流れ星を見ました。一つは小さかったのですが、もう一つは比較的大きくて、ゆっくりと赤い色の尻尾を残して消えて行きました。こうして砂漠の中で男ばかり5人でロマンティックな夜を過ごしたことが、忘れられない思い出になることでしょう。
by EldamaPersia | 2007-01-31 09:55