イラン在住4年間の写真集とイランを舞台にした小説です。


by EldamaPersia

カテゴリ:遥かなる遺産 Part5( 4 )

平山は、いつものように5時半に起きて、書斎のデスクに向かい、電話回線でインターネットに接続し、電子メールをチェックした。すると、岡野からメールが来ていた。

メールには、宗教のことが書かれていた。

「ミトラ教は、アーリア人がミトラを神とした宗教で、イラン北西部にいたイラン・アーリア人のミトラ信仰が元になって、ミトラ教が作られた。その後、分派として拝火教が作られた。

「拝火教では、善の神アフラ・マズダと悪の神アーリマンが絶え間なく戦い、最後に悪は敗北し、世界は終末を迎え、人は最後の審判を経て救済されるという。

「ユダヤ人は拝火教から終末論を採用し、ユダヤ教を作り上げた。それがキリスト教にも受け継がれている。

「一方、インド・アーリア人は、ミトラ信仰を元に、土着の信仰を取り込んでバラモン教を作り、そこからさらにヒンドゥー教や仏教が作られた。仏教の「弥勒」の起源もミトラといわれる。

「ユダヤ教とキリスト教、それにイスラム教が同じ起源をもつことは周知のことであるが、ミトラ教まで遡ると、ヒンドゥー教や仏教まで同じ起源といえる。」

岡野は、ミトラ教の他の宗教に与えた影響について調べたようだ。そして、ミトラ教がすべての原始宗教の起源だったというのだ。

平山は、この1年間に自分たちがやったことが空恐ろしいように思えた。3,000年前に宇宙から来た3人によって人類全体が大きな影響を受けているのである。3人の肉体は死んでしまったが、彼らの伝授したもの、そのスピリットはしっかりと根付いているのだ。

宗教上では、善と悪との戦いと表現されているが、実際は精神科学と自然科学との戦いである。無秩序な武器開発のため多くの犠牲者を出したことから、自然科学を悪の権化とみなしたようだ。実際問題、野放しでの自然科学の進歩は怖いものである。アインシュタインは、核兵器の出現なんてまったく予想していなかったのだ。

一方、精神科学が勝り過ぎると、自然科学の進歩が止まってしまう。さらに、人々は客観的事実が伴わない理不尽な支配を受けることにある。歴史上、地球が丸いということ、地球が太陽を周回しているということが、事実として認められないという時代があった。

そして、もう一つの要素として社会科学の概念がもたらされている。法律による公平な扱いと秩序の維持、これは国の統治において大変有用なものであろう。しかし、この三要素があっても、依然として世界平和は実現できていない。

その後、地球に来たのは3人であったが、元々は4人のグループであったことが分かった。地球に辿りつけなかった一人の能力についてはまったく分からないが、3人を統率していたことから、三要素を統括できる可能性がある。平山は、この4人目の能力を知りたくてたまらない。戦争を回避するために不可欠な要素に思えるからだ。

平山のアパートに岡野が夕食を食べに来ている。平山がスリランカ人のシェフを雇っているからだ。シェフと言っても、掃除などいわゆるメイドの役をこなしているのだが、以前はスリランカ大使のシェフをやっていたそうで、その腕前はプロのシェフである。

「平山さん、ミトラの分身はアツーサだけだと思う?」
「え?彼女はギーラーン州の出身だし、特別だと思っていたけど」
「彼女だけが受け継いでいるなんておかしいと思わない?」
「いや、まぁ、そうだけど・・・」
「昔からいたんじゃないかな、ああいう能力を持った女性って」
「まさか・・・ 魔女とか?」
「まさにそうじゃない?」

岡野にアツーサのことを魔女と言われて、平山は驚いた。確かに、アツーサの能力を考えれば、魔女と呼んでもおかしくないと思う。イランに魔女狩りがあるかどうかは知らないが、彼女が自分自身の能力をひたすら隠すのはもっともなことだと思った。

「平山さん、女性には男性には理解できない能力があるんじゃないかな?」
「というと?」
「女の第六感とか、ミトラの能力は男には引き継がれないんだろ?」
「そのようだけどね」
「女性は物理的な力が弱いから、その分精神的な能力が強いんじゃないかな」
「そういうものかねぇ・・・」
「女性はみんな、強さの程度は違うけど、ミトラの能力を持っているのかも知れないよ」
「女性になったことがないから、分からないけどな」
「男なんてみんな、女性の掌の中で踊らされているだけかもよ」
「歴史の裏に女ありっていうね」
「犯罪の裏にじゃなかったかな」

平山は思う。どうも男には女性に対するコンプレックスがあるようである。よく問題になる女性の社会進出への差別というのは、このコンプレックスの裏返しのような気もする。そして、男は所詮母性には敵わない。

「ミトラのスピリットが西に伝わって、そこで魔女の存在が発覚したんじゃないかな」
「魔女狩りは、集団ヒステリーの結果だろうに」
「集団催眠にも似たようなものじゃない?」
「魔女が使うのは箒じゃなくて、スライダーだったとか?」
「あはは、まさか。でも、飛ぶように見せることはできただろう」

平山はアツーサの能力を考えていると、ふと自分たちのことを思った。

「でもさ、今回の事件に巻き込まれた私たちって何だろうか?」
「平山さんにはマツダの能力があるとかアツーサが言っていたんだろ?」
「私には法律の知識なんてないよ」
「そんな具体的なものじゃなくても、何かがあるんじゃないか?」
「残念ながら、何もないね」
「きっと何かあるさ」

ミニ・シャトルを隠してしまうことで問題が解決したのではなかった。空軍のシャフィプール大佐は、ミニ・シャトルの秘密を探るために平山たちを泳がせていたのである。シャフィプール大佐が部下に指令を出している。

「いいか、しっかり見張ることだ」
「はい」
「あの未確認飛行物体、カスピ海に沈んだという噂がありますが」
「やつらがそんなことをするはずがないだろう」
「はぁ。やつらは何者でしょうか?」
「分からない。どこかのスパイかも知れない」
「戻って来たというのが分かりませんね」
「まだ何かをする気なのだろう」
「捕まえて、泥を吐かせましょうか?」
「いや。いずれ動き出す。やつらに悟られるな」
「チャシム」
「まさか、国外に逃げ出すことはないとは思うが・・・」
「アガエ・シルダムは何も知らないようですが」
「ああ、あれはいい。利用されただけだ」
「はい」



一方、弁髪のチャガタイは部下と話をしていた。

「チャガタイさま、大丈夫ですか?」
「俺は、カスピ海で一体何をしていたんだろうか・・・」
「ミニ・シャトルのこと、思い出せないのですか?」
「ミニ・シャトルって何のことだ?」
「1億ドルのことは?」
「なんだそりゃ?」
「アツーサのことは?」
「アツーサ?」
「変な日本人二人のことは?」
「日本人?クソっ、ダメだ、何も思い出せない」
「では、ミスター・有馬が来るというのは?」
「ああ、思い出した。ボスが来ることになっていたな」
「へい、明日ですぜ」



平山のオフィスでは、

「アツーサ、どうしても宇宙船のことが諦めきれないのだが」
「湖底に土砂の下に埋まっているものにどうやって接近するのですか?」
「そこが問題なんだなぁ」
「無理ですよ」
「でも、宇宙船の中には戦争を防げる知恵があるかも知れないんだよ」
「どうでしょうか・・・」
「宇宙船なら、いろいろな情報が積み込まれているはず」
「個人情報もあるかも知れませんね」
「そうなんだ」

黒塗りの大型ベンツが止まった。運転席と助手席から男が二人降りて来た。助手席の男が後ろのドアを開けた。降りて来たのは、やや小柄で小太りの坊主頭の男である。3人は、サングラスをかけ、黒いシャツに、黒いスーツを着ている。ネクタイは暗い色である。

運転席から降りて来た男が、門にあるインターフォンのボタンを押した。それから1分もしないうちに、チャガタイとその部下が門のところにやって来た。

「ボス・有馬、ホシュアマディード、ハレショマーチェトレー?」
「日本語で話せ、何を言ってんだか分からん」

坊主頭の男は、チャガタイの握手を無視して、ポケットから葉巻を出すと、先端を喰いちぎった。一本が1万円もするハバナである。脇にいる黒い服の男は、すかさずジッポのライターを差し出し、葉巻に火を点けた。

全員がチャガタイのオフィスに入ると、話が始まった。坊主頭は、黒い服の男の通訳を介して話を聞いている。

「ブツの取引の方は順調らしいな」
「へい、警察とは仲良くしていますんで」
「需要は増加している。アフガニスタンからはどうだ?」
「へい、一時は減りましたが、今は持ち返してまさあ」
「よし、引き続き頑張ってくれ」
「へい」
「で、UFOとやらはどうなった?」

坊主頭にこの話をされて、チャガタイは当惑した。どうして知っているのか、部下がボスに知らせたのだろうか・・・ チャガタイには、UFOの伝承とそれを探し始めたときの記憶しかないのだ。

チャガタイの代わりに部下がミニ・シャトルのことを話し始めた。アツーサのこと、誘拐のこと、催眠術にかけられたこと、カスピ海でのこと、それらを話した。話を聞き終えて、坊主頭は言った。

「そうか、ミトラの分身が出現したのか・・・」
「へい、アツーサの目を見ないようにはしたんですが」、チャガタイが答えた。
「バカめ、記憶まで消されおって」
「面目ない」
「ミニ・シャトルはどこかにある」
「またアツーサの子供を誘拐してみましょうか?」
「いや、やつらにミニ・シャトルを使わせるのがいい」
「というと、いずれ宇宙船に接近しようとするってことだよ」
「宇宙船?」
「ああ、母船だな。ミニ・シャトルは短距離移動か作業用だ」
「なるほど」
「動き出さなければ、動かなければならないようにするまでだ」

(つづく)

(注)こちらはフィクションですから人名など実在するものとは一切関係ありません。
[PR]
by eldamapersia | 2007-10-03 05:00 | 遥かなる遺産 Part5
平山が、岡野のアパートで話している。岡野がしみじみと言った。

「それにしても、3,000年もの間、壊れないマシーンというのはすごい技術だなぁ」
「電化製品の会社だったら潰れちゃうだろうけどね」
「使っていれば、消耗品には寿命があるだろう」
「使ってなくても、あちこちがおかしくなるものだけどね」
「そこが違うってことだろう」

「ところで、岡野さん、湖底の土砂の下の宇宙船には接近できないのだろうか?」
「絶対とは言わないけど、相当難しいねぇ」
「爆破したらどうだろうか?」
「そんな爆弾、手に入らないだろ?」
「そうだなぁ・・・」
「まあ、諦めるしかないだろう」
「悔しいなぁ」
「確かにな、母船にはいろいろな未来の技術と情報があるだろうなぁ」
「自然科学は、まだ我々の手に負えないだろうけど、戦争を避ける知恵は貴重だ」
「そんなものがあると思うか?」
「ミソラとアリマが共存していたのだからねぇ」
「宇宙船の中の一時的なものかも知れない」
「スルガ艦長、彼の能力をどうしても知りたいんだ」
「アツーサは知らないのか?」
「知っていたら、苦労しないさ」
「それはそうだな」

平山は、スリランカ人のシェフが夕食を用意しているので、岡野のアパートを早々に引き上げた。

平山は、岡野との話で出たアツーサのことを考えている。現在、彼女は問題を抱えているのだ。テヘランの不動産バブルは継続していて、アパートの家賃が年々値上がりしているというのである。平山はアツーサの給料をインフレに合わせて上げているのだが、追いつかないらしいのだ。アツーサは移るためのアパートを探していた。

テヘランで暮らすためには持ち家でないと相当苦しい。一人分の稼ぎは賃貸料に消えてしまうのだ。持ち家でも、子供のいる世帯では、質素な暮らしで月に500ドルは必要だろうし、普通の生活をするためには1,000ドルくらいは必要だろう。

平山は、ときどきアツーサが暗い顔をしているのを見ることがある。そういうときは決まって将来のことを考えているのだった。家賃のこと、自分の仕事のこと、これからかかる子供の教育費のことなど、テヘランで生きるというのは厳しいことのようだ。

カスピ海の実家に行くのはどうかと訊くと、ご主人の仕事の関係でテヘランでないといい仕事がないという。

平山はいつものように5時半に起きた。早起きのようだが、実際の理由は日本との時差にある。インターネットで日本人との交信はできるのだが、イランで夜の9時頃になるとみんなが就寝してしまうのだ。おやすみの挨拶で自分まで眠くなってしまい、早く眠る習慣が身についてしまったのだ。

書斎から見えるアルボルズ山脈を眺め、のんびりした朝を過ごすのが日課であった。アライーの運転する車は8時まで現れない。

そうしていると、足元がゆっくりと大きく揺れ始めた。地震だ。アパートの構造のせいだろうが、非常にゆっくりした気持ちの悪い揺れである。揺れは次第に大きくなった。平山は10階に住んでいるが、地震のときにエレベータを使う訳にもいかない。飛び降りるには高過ぎた。

逃げ場のない平山は覚悟した。こうなったら他のビルの倒壊でも見てやるぞ、そんなヤケクソの気分だった。平山のアパートは高層ビルで構造がしっかりしているが、普通の5階建てのビルは下から組み上げていく地震にはもっとも弱い構造のものだ。

長い大きな揺れはようやく静まった。平山は急いでテレビのスイッチを入れて、普段はみないイランの番組にしてみた。しかし、日本のように直ぐに地震情報が出ないようだ。

「ミスター・平山、おはようございます」
「おはよう。すごい地震だったね」
「はい」
「あれだと、どこかで大きな被害が出ているんじゃないかな」
「カスピ海の方のようです」
「え!実家は大丈夫?」
「まだ分かりません、電話が繋がらないのです」

平山が地震の情報を得たのは、オフィスに着いてからだった。アツーサによると、震源地はカスピ海らしい。平山は、地震だけでなく、地震による津波を考え、アツーサの実家がますます心配になった。アツーサは携帯電話でようやく現地の状況を知った。幸い、実家の方にはあまり被害はないらしい。しかし、カスピ海沿岸地域の地震による被害は甚大であった。

イランは地震のある国である。テヘランでもいつ地震があってもおかしくない。しかし、5階建てのビルは下から組み上げるタイプのものだし、貧しい人々の家は煉瓦造りである。もしも、テヘランに大きな地震が来たら、数十万人もの死者が出てもおかしくないのだ。

アツーサの携帯電話が鳴った。平山は、何か悪い知らせかと思った。しかし、電話から岡野からだった。

「カスピ海で地震だって?」
「うん、アツーサの実家は被害はないそうだ」
「そっか、それは良かった」
「心配してくれていたのか」
「あ、うん、それもあるけど」
「え?」
「宇宙船、どうなったかなぁ?」

平山には、岡野の言いたいことは分かったが、今は地震の被害の援助のためにアルボルズ山脈を抜けるルートは大変だろうし、あの山道そのものの土砂崩れがあるかも知れない。宇宙船のことは、今は考えないようにした。

平山のオフィスに突然の来客があった。事前に連絡もなく、日本人が現れたのだ。黒いスーツにサングラスという、いかにもその筋と分かるようなスタイルであった。

「まぁ、どうぞ、お座りください」と言い、平山は客人をソファに案内した。
「有馬の使いで参りました」
「有馬さん?」
「有馬組、ご存知ないですか?」
「すみません」
「そうですか。彼からのメッセージをお伝えします」
「人違いのような気がしますが・・・」
「『自分のことを知りたければ、宇宙船に行くことだ』ということです」
「え!」

平山は絶句した。どうして、この男が宇宙船のことを知っているのだ。平山は混乱した。アツーサは日本語が分からないが、男の雰囲気の怪しさからか、睨みつけている。

「それだけです。では、失礼します」

黒いスーツの男は部屋を出て行った。

「アツーサ、あの男、宇宙船のことを知っていた」
「え?どうしてでしょうか?」
「誘拐犯の一味かも」
「誘拐犯はミニ・シャトルのことは知っていても、宇宙船のことまでは知らないのでは?」
「そう思っていたが・・・」
「それで、何て言っていたのですか?」
「『自分のことを知りたければ、宇宙船に行くことだ』だって・・・」
「そんな・・・」
「有馬という人からのメッセージらしい」
「え!ア・リ・マですか?」
「ああ、そうだ」
「まさか、あのアリマ?」
「そんなはずはないだろう。バカバカしい」
「本名でなくても、そう名乗ったのかも知れません」
「むむむ、そういうことなのか・・・」

平山は、直感的に罠だと感じた。アリマという人、平山を宇宙船に向かわせたいらしい。なぜか?宇宙船がほしいのか?しかし、その場所を知らないのかも知れない。

「しかし、あの男、サングラスを外さないなんて失礼なやつだ」
「ミスター・平山、いいえ、あれはプロテクションです」
「え?どういう意味?」
「彼の心の中が読めませんでした」
「うひゃぁ、アツーサはそんなこともできるのかよ」

平山の心の中には大きなジレンマが生じた。宇宙船のことなど今回の事件に巻き込まれた自分のことは知りたい、しかし、そのために行動すれば敵の罠にはまるかも知れないのだ。しかし、敵の罠は巧妙だった。平山はその誘惑に抗うことはできないようである。

平山は考えている。こちらにはアツーサがいる。それでも敵に対抗する術があるのだろうか。アツーサは、あのサングラスが読心術あるいは催眠を防ぐプロテクターだという。アリマと名乗るだけのことはあるようだ。

「アツーサ、それで、ミニ・シャトルはどこにあるの?」
「さあ、どこでしょう?」
「こらこら、からかわないでほしいな」
「実家にあります」
「そうか・・・」

平山には不思議に思えてしょうがない。アツーサにはすごい能力があるというのに、自分にはそういうものは何もないのだ。それがどうしてこんな厄介な事件に巻き込まれなければならないのだ。たまたまアツーサを秘書として採用したから、そんな役割を負わされただけではないのか。

平山が、そうやって自分自身を納得させていたところに、アリマの使いがやって来た。彼のメッセージによれば、平山がイランに来るようになって、事件に巻き込まれたのは必然というような話なのだ。平山は、自分自身が選ばれなければならない理由はどこにもないと思った。

「アツーサ、実家に行こう。敵の罠でも構わない。アツーサの力を信じたい」
「そうですか、分かりました」

アツーサは、不本意ながら承諾するという態度だった。そもそも、こんな事件に巻き込んだのはアツーサじゃないかと思う平山である。



こちらは、葉巻の煙が充満した薄暗いオフィスの中である。黒服の男たちが話をしている。

「有馬組長」
「社長と呼べと言ってるだろうが」
「へい、すんません。では、有馬社長。やつら動き出しましたぜ」
「動かなければ、動かすまでよ。がはは」
「では、ヘリコプターにどうぞ」
「イラン人は、チャガタイだけを連れて行く」
「へい、分かりやした」



一方、航空関係コンプレックスのシャフィプール大佐のオフィス。大佐は秘書からの電話を受けている。

「例の日本人か。そうか。待機させてある部隊を出動させろ、尾行に気づかれるな」

(つづく)

(注)こちらはフィクションですから人名など実在するものとは一切関係ありません。
[PR]
by eldamapersia | 2007-10-03 04:00 | 遥かなる遺産 Part5
平山、岡野とアツーサの三人は、アライーの車でアルボルズ越えの最中である。地震の復旧作業のためだろう、普段より交通量が多い。トラックが山道を行くため、スムースには走れない。乗用車は、車幅のある道路に出ると、のろのろ走るトラックを抜いて行く。

軍隊の車列が前にも後ろにも見られる。平山は、こちらも被災地に向かうのだろうと思った。途中2か所で山崩れがあったことが認められたが、地震の復旧作業のためにだろう、既に通行可能になっていた。

アツーサの実家に到着したときには、すっかり暗くなっていた。アツーサが携帯電話で、実家に電話をしたが誰も出なかった。家に近づくと、門が開いている。アライーは、そのまま玄関まで車を進めた。

玄関で待ち受けていたのは、アツーサの両親ではなく、3人のサングラスの男たちだった。

「平山さん、やばいぞ、やつら拳銃を持っている」

サングラスの男の一人が車に接近して来て、拳銃を向けながら日本語で言った。

「おとなしく降りろ、さもないとジジイとババアの命がないぞ」
「バーバ!」、アツーサが叫んだ。「バーバ」はペルシャ語でお父さんということだ。

平山は、不思議だった。こういうことなら、アツーサには何でもないだろうと思っていたからだ。しかし、アツーサは何もしないでいる。

「どうしたんだ、アツーサ?」
「彼ら、例のプロテクターをつけています」

平山には、ようやく事情が飲み込めた。男たちはアツーサの催眠術を防ぐため、夜にも拘わらず、特殊なサングラスをしているのだ。アリマと呼ばれている坊主頭の男が太い声で言った。

「平山さんと言ったな、ミニ・シャトルを出してもらおうか」
「・・・」
「言うことをきかないと、アツーサの両親の命がないぞ」
「分かった。ちょっと待ってくれ。今、アツーサに聞くから」
「早くするんだな、俺は気が短いんだ」

平山は、アツーサの方を向いて訊いた。

「ミニ・シャトルを渡すしかないようだ」
「はい」
「どこに隠してあるの?」
「あの堆肥です」

アツーサの指したところは、庭の草木、野菜のための堆肥を置いてある場所だった。こんもり盛り上がったところだが、車二台分の大きさのミニ・シャトルが隠れているようには見えなかった。

平山たちが、ミニ・シャトルに被せられた堆肥を除けていると、坊主頭が言った。

「さあ、これからどうするか・・・ 誰がミニ・シャトルを動かせるのかな?」

平山たちは、誰も答えずにいた。

「ダーン」、拳銃が発砲されたのだ。

鼓膜が痛くなるほどの大きな音だった。

「私です」、平山が答えた。
「よし、素直にしていないと、次は誰かが犠牲になるぞ」
「私は何をすればいいのでしょうか?」、平山が訊いた。
「それには何人が乗れるだ?」
「3人です」
「3人しか乗れないのか・・・」

坊主頭は、ミニ・シャトルに搭乗できる人数を知らなかったのだ。沈黙が続いた。

「まあ、いい。すべては明日だ。みんな家に入れ」

ミニ・シャトルはそのままで、坊主頭の部下の一人を残して全員が家の中に入った。

平山たちは、平山が以前宿泊した部屋に入れられた。アツーサの両親もその部屋にいた。アツーサは両親に飛びつき、無事を喜んだ。

しばらくすると、部屋のドアが開けられ、ナンと水の入ったペットボトルが放り込まれた。夕食はこれだけで済ませろということらしい。窓から逃げ出そうとしても、そこには鉄格子があるし、外には見張りがいる。

「これは参ったなぁ」、岡野が小声で言った。
「頼りのアツーサが無力ではどうにもならない」、平山はため息をついた。

部屋に閉じ込められた5人がナンを分けていると、突然の銃声が聴こえた。同時に外で悲鳴が上がった。直後、誰かが家に押し込んで来たようだ。家の中で大きな銃声が何発も聴こえた。アツーサと両親は抱き合っていた。平山も岡野も生きた心地がしない。

5人のいる部屋のドアが乱暴に開けられた。平山は撃たれると思ったが、そこで銃声は鳴り止んだ。ドアにいる男がペルシャ語で命令しているようだ。アツーサが通訳をした。

「軍隊です。サングラスの男たちは全員殺されました。部屋から出るようにと言っています」

平山は、「敵が変っただけか、一難去ってまた一難」と思ったが、今度は前と事情が違う。それにしても、あっけないアリマだとも思った。

リビングルームに出ると、サングラスの男たちが血まみれになって倒れていた。アツーサは、兵隊が集まると、直ぐにミトラの力を使い、兵隊たちに死体を片付けさせた。作業を終えると、兵隊たちは何事もなかったように引き上げて行った。

翌朝、3人は早速行動を起こした。再度、宇宙船の様子を見に行くのだ。地震の影響で湖底の様子が変化しているかも知れない。淡い期待である。それでも、平山は行くだけの価値があると信じている。戦争を回避する知恵がほしい、その一念であった。

ミニ・シャトルが目的地に近づいて来た。水深400m、かなり暗いが湖底が見える。地震の影響だろう、湖底には地割れが何本か走っている。前回来たときには見られなかったものだ。しかし、宇宙船のようなものは見られない。

「やっぱり、ダメか・・・」

その時、ミニ・シャトルが大きく揺れた。岡野が叫んだ。

「なんだ、なんだ?」
「あ、湖底が、砂を噴出している」
「きっと、地震が起きているんだろう」
「砂で何も見えなくなっちゃった」

ミニ・シャトルの計器に輝く黄緑色の点は変らずに表示されている。視界が回復するのには10分以上掛かったと思われた。すると、眼前に半分砂に埋まった宇宙船らしいものが見えた。

「やったね!」と岡野。
「奇跡だ!」、平山は感動しないではいられなかった。
「中に入りたいんでしょ。出入り口は大丈夫でしょうか?」、アツーサは冷静である。
「こっち側だったと思うけど、反対側だったらどうしよう・・・」

平山が、母船の出入り口を開けるボタンを押すと、泡をいっぱい出しながら、宇宙船のサイドにある出入り口が開いた。平山はミニ・シャトルを操縦して、ついに宇宙船の中に入った。3人はミニ・シャトルを降り、エアーロックを出て船内に入った。船内には非常用かも知れない薄暗い照明が点いている。

「ちょっと、息苦しくない?」とアツーサ。
「酸素が薄いのかも知れないね」と平山。
「あまり時間がないということかな」と岡野が言った。
「そうかも知れないな。苦しくなったら直ぐにミニ・シャトルで脱出しよう」と平山。

3人はコクピットを目指して移動した。コクピットに入ると室内が少し明るくなった。平山にとっては夢でみたことのある宇宙船であるが、実物はやはり違うものだと思った。岡野にとってはまったく初めてのもののはずだが、静かに平山とアツーサの後について来ていた。

岡野がコクピットの操縦席に座った。もちろん、岡野には操縦方法などは分からない。それでも異次元のテクノロジーに触れて感動している様子であった。平山は、コクピットには操縦に関する情報しかないだろうと思った。

平山は、図書室のようなものがないか、宇宙船の中を探そうと考えた。岡野は興味深そうに、コクピットでいろいろなものを調べている。

「ちょっと図書室を探してみる」

平山は、そう言ってコクピットを出ると、アツーサもついて来た。アツーサはコクピットに興味はないようだ。平山は、宇宙人の図書室なんて想像を超えているが、覗いてみれば見当がつくかも知れないという期待を持っていた。

コクピットに近い場所の各部屋にはドアのようなものが見られなかった。平山が会議室のようにみえる部屋に入ると、コクピットに入ったときと同じように室内が少し明るくなった。中央には床から生えているような丸テーブルがあり、周囲には椅子が設置されている。それで、平山には会議室にみえたのだ。

しかし、よく見ると丸テーブルは椅子から離れているため、飲み物などを置くところには見えない。平山が椅子に座ってみると、前に手を伸ばすと丁度カウンターのようなテーブルがあり、表面がデコボコしている。平山は直感的に何かの操作をするためのボタンが並んでいると思った。適当に触ってみると、丸テーブルの上が光り、何かが現れた。

「アツーサ、すごい!これはホログラフィだ!」
「わぁ、きれい!でも、何ですか、これ?」
「何だろうねぇ、何かの像みたいだけど、何だろう?」

ホログラフィは、その像のようなものをどんどん小さくしていった。像は建物の上にあるもののようである。

「あ、これって組織の説明みたい」

平山は、どこかの会社や国の機関のホームページを開いたような感じを持った。

「空が青いや。地球のような惑星みたいだ」
「雲もありますね」

ホログラフィは建物の入り口をアップにしている。そして、記号のようなものが次々に現れた。

「アツーサ、これは文字かも知れない」
「文字みたいですね」

平山は、少しがっかりした。宇宙人の文字の解読なんて気が遠くなるほどの年数が必要に思えるのだ。

「あ、宇宙人だ」
「これが宇宙人の姿なんですか・・・」

美しい衣装をまとい、二足歩行をしている。アツーサが叫んだ。

「あ!顔がみえる」
「人間と同じようだけど、つるりとして気持ち悪いな」

ホログラフィに顔がアップになった。何かを話しているようだが、まったく聞いたことのない言語だと平山は思った。

(つづく)

(注)こちらはフィクションですから人名など実在するものとは一切関係ありません。
[PR]
by eldamapersia | 2007-10-03 03:00 | 遥かなる遺産 Part5
果てしなくホログラフィを見ていたい気分の平山だったが、意味が分からないのが辛いところだった。じっくり時間を掛けて見ればいろいろなことが分かってくるだろうと思った。平山は、岡野にも見せたいと思った。

「岡野さん、ホログラフィが見られるよ」

コクピットが近いので、少し声を大きくして叫んだ。しかし、岡野からの返事はなかった。

「岡野さーん、すごいよー!」
「どうしたのかしら?」
「何か夢中になるものでもみつけたのかな?」

平山とアツーサはコクピットに戻って行った。岡野は、そのままコクピットに座っていた。

「岡野さん、面白いものをみつけたの?」

岡野が立ち上がって振り向いた。サングラスをかけている。そして、低い声で言った。

「俺は、この宇宙船をもらうことにした」
「え?どういうこと?」
「この宇宙船は、お宝だよ」
「それはそうだよ。人類が平和に暮らせる知恵があるかも知れない」
「そんなことはどうでもいいことだ」
「おまえたちには、価値が分からないのだろう。一生贅沢をして暮らせるだけの金になる」
「岡野さん、いったい何を言っているんだ?」

アツーサが言った。

「ミスター・岡野、そのサングラス、どうしたのですか?」
「おまえたちが邪魔なんだよ」と、岡野。

岡野の手には拳銃があった。

「おまえたちには、ここで死んでもらおう」
「え?」
「ここに残れと言っているんだ」

岡野は、拳銃を平山とアツーサに向けたまま、コクピットを出て行こうとしている。

「動くな、そこにそうしていろ」
「岡野さん」
「飢え死にした頃、チョウザメの餌にしてやるよ」
「・・・」
「時間のある限り、せいぜい平和でも研究していればいいさ」

岡野はミニ・シャトルに乗り込んだ。本当に二人を置き去りにするつもりらしい。

岡野はミニ・シャトルで行ってしまった。宇宙船に残された平山は、まだ起きたことが信じられないでいた。アツーサが口を開いた。

「ミスター・平山、ミスター・岡野はアーリマンのスピリットに乗っ取られたみたいですね」
「そんなことがあるものか」
「あの有馬という人が死んで、乗り換えたんじゃないでしょうか?」
「アツーサもミトラに乗っ取られているのかい?」
「まさか・・・、でも、ある意味では、そうかも知れません・・・」
「精神科学でいうとそうなるのか?私が思うに、岡野さんには、もともとそういう資質があったんじゃないかな」

平山は、岡野がこれまでに言ったことを思い出した。

「イランって悪の枢軸なんて言われているけど、世の中に悪がなくなったらどうなんでしょう?」
「楽をして儲けたい・・・なんて悪だと思うけど、そういう動機があるから技術が進歩したのでは?」
「戦争で多くの敵兵を殺したら、ヒーローになって勲章がもらえるでしょ」
「うーん、悪という部分も必要な要素なんじゃないかって気がするってことなんだけど・・・」

アツーサのことを見破ったのは岡野であり、魔女と言ったのも岡野だった。

平山は思う。しかし、今、そんなことを考えていてもしょうがない。400mの水深のところから脱出しなければいけないのだ。400mの水深というのは40気圧になる。どんな圧力かも想像できないし、それに耐えられたとしても、水面に達したら、目玉が飛び出してしまうかも知れない。

船内は少し息苦しい、宇宙人に合わせた空気の組成なのだろう。大きな宇宙船だから、窒息死するには相当時間が掛かるだろう。それなら、飢え死にの方が先に来るはずだ。

「アツーサ、さあ、どうするか?」
「この宇宙船ってエンジン故障しているけど、完全に動かないのでしょうか?」
「動かそうというのか?」
「やってみる価値はあるのでは?」

平山は、岡野は動かそうとしていたのかも知れないと思った。それがダメだから、ミニ・シャトルで逃げ出したのかも知れない。だから、あれほど自信たっぷりに「ここで死んでもらおう」なんて言ったのだろう。

ともあれ、他に手はないようだと、平山は操縦席に座った。ミニ・シャトルを操縦できるのは夢のせいだったが、宇宙船を操縦した夢はみたことがない。夢では、アリマが操縦していたのだった。

平山は、いろいろやってみた。多分、岡野もそうしたのだろうと思った。

「ミスター・平山、ホログラフィを調べて来ます」

アツーサは、ホログラフィのある部屋に行ってしまった。平山は、言葉が分からない状態で手掛かりが得られるとは思えなかった。

平山は、コントロールパネルのあちこちをいじってみた。しかし、宇宙船はうんともすんとも言わない。いったいどうやってパワーを”ON”にするというのだ。あの研究心の強い岡野が諦めたほどのこと、平山にできるとは思えなかった。

しばらくするとアツーサが戻って来た。平山は、やはりダメだったろうという表情でアツーサを見ると、アツーサの目が燃えていた。平山がアツーサのそんな目を見るのは初めてだった。

「ミスター・平山、私の目を見てください」

アツーサの言葉は否応なしの命令だった。その直後、平山は少し眩暈を覚えた。アツーサが続けて言った。

「さあ、もう宇宙船を操縦できるはずです」
「え?そんな・・・」

平山はアツーサの能力を知っているだけに半信半疑だったが、言葉に従い、目をつむり、心を無にするように努力した。私は・・・ マツダ・・・

平山は、パスワードを入力するとパワーを”ON”にした。宇宙船は死んではいなかった。コクピットの計器類にライトが点った。平山が叫んだ。

「アツーサ、シートについて!反重力装置始動!」

宇宙船は、静かに浮上を始めた。

「やったね!壊れていたのは、恒星間移動用のメイン・エンジンだったようだ」
「ミスター・平山、やっぱりね」
「アツーサには、『やっぱり』なのか・・・ でも、いいや。さあ、行くぞ!」

宇宙船は静かに水面まで浮上した。いや、水面以上の高さまで浮上した。

「ミニ・シャトルはどこかな?あ、これか」

パネルの表示板の一つが、岡野の操縦するミニ・シャトルの位置を示していた。まだ飛行中のようだ。

「岡野さん、どこに行く気なのだろう?」
「ミスター・平山、追いかけて!」
「ああ、そうするとも!」

宇宙船は、大きな加速度でミニ・シャトルを追いかけ始めた。ミニ・シャトルの移動速度とは比べものにもならないほど高速である。ミニ・シャトルは、あっという間に至近距離になった。カスピ海を抜け、ロシアの領地に入るところだった。

「待て!岡野!」
「いったいどうやって動かしたんだ・・・」

岡野の操縦するミニ・シャトルは逃げる。アツーサが叫んだ。

「大変、ロシアに売り渡す気のようです」
「こんな技術が、今の世界にもたらされたら大変だ・・・」
「ミスター・平山、破壊してください。そうしないと多くの人が死ぬことになります」
「しかし、岡野さんが・・・」
「もう時間がありません。他に方法がないでしょう!」

平山は、しかたなく、レーザー砲を使うことにした。

「岡野、死ぬなよ!」

レーザーガンのビームとは比較にならないほど強力なレーザービームがミニ・シャトルに照射さ
れた。レーザービームを受けたミニ・シャトルはキリモミ状態になり、コントロールを失い、下降
し始めた。

「まずい、大丈夫だろうか・・・」

ミニ・シャトルは、緑の大地に向かって墜ちていく。

「岡野!岡野!姿勢を直せ!」

平山の必死の叫びは、岡野を気づかせたようだ。ミニ・シャトルは少し態勢を立て直したようだったが、麦畑に向かって突っ込んで行った。



平山がミニ・シャトルのドアを開けた。コクピットに行くと、岡野が気を失っていた。岡野のかけていたサングラスは粉々になって落ちていた。

「おい!岡野!大丈夫か?」
「ミスター・岡野!アー・ユー・オーケー?」
「岡野!しっかりしろ!」

平山に揺すられたせいか、岡野が気を取り戻した。

「うう、どうしたんだ?」
「墜落したんだ」
「墜落・・・・」

平山とアツーサは、ふらふらしている岡野を宇宙船に運ぶと、次にミニ・シャトルを格納した。幸い、ミニ・シャトルはまだ壊れていないように見えた。レーザービームでコントロールを失っただけのようだ。

「さあ、誰かが来る前に退散だ!」

宇宙船は静かに上昇し、再びカスピ海の方向に飛び去った。



「平山さん、アツーサは?どこに行ったの?」
「今、航空関係コンプレックスに行っている。やることがあるんだ」
「そうか、そうだろうな」
「シャフィプール大佐が騒ぎ出したら面倒だからね」

岡野は、病室で安静にしている。墜落のショックでかなりの打撲があったが、命に別状はないということだった。

「平山さん、悪かったな」
「いや、あれは岡野さんじゃなかったさ。アーリマンが乗り移っていたってアツーサが言っていた」
「そうでもないと思うよ。あれも俺自身さ」

岡野は、自分のやったことを自嘲気味に振り返っていた。

「でも、平山さん、あの宇宙船、よく動かせたね」
「ああ、アツーサが調べてくれたんだ」
「すごいね、やっぱり魔女だな」
「彼女には、言葉は重要ではないみたいで、イメージでそのまま伝達できるようなんだ」
「そうなのか。やっぱり、すごいな」
「少し怖いかな」と平山が微笑みながら言った。

そうしていると、アツーサが病室に入って来た。

「ミスター・岡野。大丈夫ですか?」
「ああ、もう大丈夫です。いろいろありがとう」
「いいえ」
「いろいろと迷惑を掛けてしまった」
「気にしないでください」

平山とアツーサは、「岡野にまた来る」と言って病室を後にした。すると、アツーサが平山に言った。

「ミスター・平山、あの時、私はミスター・岡野を本気で殺したいと思いました」
「そうだろうな、それがミトラの欠点じゃないかな」
「知っていたのですか?」
「うん」

平山は、自分の捜し求めていたもの、つまり、戦争を避けることのできる知恵と言えるもの、善神と悪魔とを上手くコントロールできたというズールワン神の力がどういうものか、少しだけ分かったような気がしているのだった。

歴史的には、ミトラが霊あるいは精神を司り、それが善として扱われ、一方アーリマンが物質あるいは科学技術を司りながら、それが悪として扱われて来たが、そもそも善も悪もない。どちらかが強過ぎると弊害があるというもので、その両者を正しく認識できる力、それが第三の力であり、スルガ艦長の後継たるマツダの真の能力だと思えるのだった。



ロシアの新聞では、カスピ海上空でUFOが目撃されたと報じられたが、米国かロシアの新兵器だろうということでほとんど注目されなかった。

そして、あの宇宙船は今でもカスピ海の底に眠っている。ミニ・シャトルは、アツーサの家の庭にあるかも知れない。

(Part5 おわり)

(注)こちらはフィクションですから人名など実在するものとは一切関係ありません。
[PR]
by eldamapersia | 2007-10-03 02:00 | 遥かなる遺産 Part5