イラン在住4年間の写真集とイランを舞台にした小説です。


by EldamaPersia

カテゴリ:遥かなる遺産 Part4( 4 )

ここは、テヘランにある薄暗いオフィス、三人の男が話をしている。平山たちがスピードガンを探しに来たところである。

「あのときは、まんまとしてやられたものだ」
「へい、戻って来てトラックの荷台を見たら驚ろいたのなんのって、完全に消えちまった」
「直ぐに引き返したら、空の洞窟への入り口があっただけ。いったいどうなってるんだ」
「チャガタイさま、あいつらがミニ・シャトルを隠したのでは?」
「あんな短時間でそんなことができるはずがないだろ!それに、どこにも穴なんてなかった」
「へい、そのとおりで」

弁髪の男の名前は、チャガタイという。モンゴル系の名前である。

「洞窟の中に隠し部屋でもないかと思ったのだが」
「あれだけハンマーで叩いても何もありやせんでしたぜ」
「入り口を隠しもしなかったってことは、やつらもその時に空だと知ったのかもな」
「さすが、チャガタイさま、鋭い読みですなぁ」
「バカヤロー、おまえにそんなことを言われても嬉しくもない」
「最初からないことを知っていて、あそこに案内したのかも知れませんぜ」
「可愛い孫のためにそんな危険を犯すはずがないだろ」
「それもそうで・・・」
「問題は、山道で左折したとたん、飛び出して来たアツーサですぜ」
「三人で彼女を見てしまったからもういけませんや」
「あそこでまんまとはまったという訳だな、ちくしょうめ」



一方、平山のオフィスでは、平山とアツーサが話をしている。

「岡野と話をしたのだが、空から現れた三人は意図的に分散したらしい」
「ミスター・平山。そうなんでしょうか?」
「もちろん、本当のことは分からないが、その後人類の悲劇が始まったとはいえそうだ」
「よく分かりませんが」
「悪魔と言われるアーリマンだが、実際は自然科学の研究を進めたのだろう。そして、目的のためには手段を選ばないという恐ろしい性格を持っていた」
「ミトラが抑えていたのですね?」
「そう思う。だから、アーリマンは逃げ出したのかも知れない」

アツーサは、そういう事情についてはまったく知らないようだ。平山は、彼女はミトラのスピリットを強く受け継いでいるだけだと思った。必要があれば、再び夢としてミトラを登場させてくれるのかも知れないとも思った。しかし、あの2回の夢の後、ミトラが登場する夢をみたことはない。

「アツーサ、もしも、宇宙船に行ければ、平和の鍵というか、戦争を避けられる方法が見つかるかも知れないと思うのだが」
「アーリマンを撲滅すればいいのでは?」
「いや、それでは人類の進歩がなくなってしまう」
「進歩なんて必要なのでしょうか?」

「進歩なんて必要なのでしょうか?」とアツーサに言われた平山は答えに窮してしまった。日本という先進国に生まれた平山だが、今の日本がイランよりすべてにおいていいと言えるのかどうか疑問に思えるのである。

平山は思う。人間には欲望がある。平和はもちろん必要だが、誰だって世界各国を旅行してみたいだろうし、文化水準の高い暮らしをしたいだろう。美味しいものを食べたいということもあるだろう。物質欲といえばそうだが、こういう欲望を捨てることはできないのではなかろうか。

問題なのは、進歩している日本だが、そこに住む日本人がそれほど幸せそうでないということである。平山は自分自身を不幸だなんて思わないが、このところの日本の様子はおかしい。正直なところ、イランが発展して、もしも日本のようになるとしたら、あまり嬉しくないのだ。

イラン人の子供たちは、素朴であり、大きな目を輝かせている。そして、親をとても大切にしている。こういうものが日本ではあまり感じられないのだ。もちろん、日本人にとってイランでの生活は、日本に比べれば不自由なことばかりである。

「アツーサ、私たちには知りたいことがいっぱいある。戦争を避ける知恵もそうだし、人間の欲望への対応についても知りたいと思う。宇宙船には多くの知識が集積されているのではなかろうか」
「興味深い話ですが、それにはミニ・シャトルがなければどうにもなりません」
「そうだった。消えたミニ・シャトル、手掛かりはないものかなぁ」
「盗掘されたことは間違いはありません。でも、どこに持ち去られたのでしょう」
「お金が目当ての盗掘なら、知られずに済むはずはないのだが」
「いつの時代でもそうでしょうね」

そんな話をしていると、そこにマジディ部長がやって来た。

「サラーム。ミスター・平山、ハレショマーチェトレー?」(ご機嫌いかが?)
「フバン・メルシー」(元気です)

このくらいのペルシャ語なら平山にもできた。ただし、そこまでである。平山は、アツーサに紅茶を淹れるように頼んだ。マジディ部長が平山のオフィスに来ることは、それほど頻繁ではなかった。平山には、マジディ部長がどんな用件で現れたのか気になった。

しかし、マジディ部長はとりとめのないことを話しているだけだった。そこで、アツーサが化粧室に行くと言って、部屋を出て行った。すると、マジディ部長が小さな声で平山に言った。

「今度、楽しいことをしよう」
「え?楽しいことですか」
「そう、リラックスして過ごすんだ」
「木曜日にアパートに迎えに行くよ」
「はい、分かりました」

マジディ部長は、アツーサには聞かれたくないような感じだった。どこに案内されるのか平山には分からなかったが、マジディ部長の誘いなら断る理由がない。



平山は、マジディ部長の4WDを降りて友人のシルダム氏のアパートに向かった。玄関に出て来たのは白髪の痩せた初老の男性だった。既に定年退職をして今は悠々自適の生活をしているとのことだった。シルダム氏は笑顔を見せながら平山と握手をして家の中に招き入れた。

平山が案内されたのは、シルダム氏の書斎のようであった。そこには、パジャマのようなゆったりとしたものが置いてあり、なぜかマジディがそれを着るように勧めた。リラックスするためらしい。マジディ部長も着替えて、床にある座布団の上に座った。

イランでは、レストランでも和室のように床に座ることがある。平山は、座ることには抵抗はなかった。のんびりくつろぐのには最適かも知れないと思った。そうしていると、シルダム氏が紅茶を運んで来てくれた。角砂糖の変わりに黄色い砂糖が大きなボールに入れられてあった。平山はサフランの色だろうと思った。

シルダム氏は再び部屋を出ると、今度はなにやら道具箱のようなものを持って来た。マジディ部長は、平山にシルダム氏が彼の兵役時代の上官であったことを説明した。シルダム氏は英語を話さないので、平山は直接の会話をすることができなかった。シルダム氏は、道具箱からナイフを取り出して、何かをスライスしているようだった。

5mmくらいにスライスされた欠片に火を点け、それを溶かした。部屋の中に奇妙な臭いが漂った。シルダム氏は、それを金属のヘラのようなもので取って、棒のついた丸い頭につけた。そして、溶けたものをヘラで丸く固めて、棒の反対側の端を口につけ、ライターの火を溶けたものにつけて吸い始めた。

そして、それをマジディ部長に手渡した。マジディ部長は手馴れた様子で頭のついた棒を扱い、大きく吸い込んだ。このとき、平山はようやく彼らのやっていることの意味が理解できた。これは阿片なのだ。

マジディ部長によると、シルダム氏は定年退職をして、このようにして阿片を毎日楽しんでいるという。阿片中毒ではあるが、コントロールした量で楽しんでいるというのだ。マジディ部長が吸い終わると、シルダム氏は再び同じ作業をしている。マジディ部長は、次は平山の番だと促している。

平山は躊躇した。あの阿片である。繰り返しやらなければ麻薬中毒にはならないだろうが、麻薬であることには違いない。もっとも、阿片はモルヒネの原料になるので、それ自体が有害なものではないと思った。平山は、マジディ部長の手前、拒否するというのも具合が悪い。

平山は手渡された煙管を持った。マジディ部長がライターで火を寄せてくれている。平山は、覚悟を決めて煙管を吸い込んだ。とても美味しいは言えない香りであった。マジディ部長はもっと大きく吸い込むように促している。平山はさらに大きく吸い込んだ。

平山は、体全体が元気になるような気がした。幻覚などはない。平山は、麻薬のようなものは常習しなければ、幻覚などを直ぐに味わえるものではないだろうと思っている。

マジディ部長は、平山に砂糖をいっぱい入れて紅茶を飲むように勧めた。大きく息を吸い込むせいか、血圧が下がるというのだ。平山は、脳貧血になった人に砂糖水を与えるということを思い出していた。

平山は、それ以後は阿片の吸引を遠慮した。平山はやることがないので、マジディ部長にイランに未確認飛行物体の話があるかどうか訊いてみることにした。

「マジディ部長、イランでもUFOというのは話題になりますか?」
「UFO?どうかなぁ」

マジディ部長は、シルダム氏と何かを話している。阿片の効果なのだろう、マジディ部長はいつもより陽気にみえた。

「ミスター・平山、この地域にはこれまでにいろいろな飛行物体が落下しているそうだ。しかし、それが宇宙から来たものなのか、ソ連から来たものなのか、米国から来たものなのか、それは分からない。シルダム氏によると、それらを軍が保管しているそうだ」
「それらはどこに保管されているのでしょうか?」
「テヘランの郊外、ソルケヘサールに航空関係のコンプレックスの中にあるそうだ。ただ、ほとんどのものがそのまま放置されているらしい」
「いい研究材料になると思いますが」
「役に立つものもあるだろうし、価値のないものもあるだろう」

平山は、あの大きな石のようなミニ・シャトルはどのように扱われるだろうかと思った。バラバラにされてしまったか、あるいは手に負えなくて放置されているのだろうか。



「平山さん、そうなんだ。それは面白いなぁ」
「うん、興味深い情報だね、岡野さんの言ったとおりみたいだ」
「UFOがあるかも知れないね」
「あのミニ・シャトルがあるかどうかは分からないけどね」
「でも、可能性はあるし、他のUFOがあるかも知れない」
「そこまで話が飛躍すると、頭が混乱しちゃうよ」
「どう?行ってみないか?」
「イランの軍隊の管理下だよ。そんなことはとても無理じゃないか?」
「こちらにはミトラのパワーがあるんだよ」

平山には、岡野の意図したことが理解できた。ミトラのパワーを使えば、相手が軍とは言え、なんとかなるのではないかと思えるのだった。

「岡野さん、でも、保管されている場所が分からないよ」
「確かに、コンプレックス全体を探すなんてことはできないな」
「シルダム氏に聞いてみるか。でも、彼が知っているかどうか分からない」
「どうして、そこまで聞かなかったんだろうか」
「いや、軍の施設と聞いたんで、そこでもう諦めちゃったんだ」
「そっか、軍の施設に潜入するなんてことは考えられないものなぁ」
「そうだろ」
「ともあれ、そのコンプレックスを見に行ってみないか?」

(つづく)

(注)こちらはフィクションですから人名など実在するものとは一切関係ありません。
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by eldamapersia | 2007-10-03 10:00 | 遥かなる遺産 Part4
平山は、アツーサに岡野と話したことについて話している。

「ミスター・平山、そんな危険なことはいけません」
「でも、ミニ・シャトルがあるかも知れないんだ。そこにあるかどうか、まずは確かめなくてはいけないんじゃないか?」
「それはそうですけど・・・」
「存在している限り、いつアーリマンの手先に落ちないとも限らないしね」
「でも、危険過ぎます」

アツーサは、まったく話に乗って来なかった。平山は、2歳の子供を持つ母として、それは当然なことだろうと思った。アツーサの協力が得られないのでは、平山と岡野ではどうしようもないことである。



木曜日になった。平山は、用事があると言って、アライーに来てもらった。平山は、岡野を拾って、シルダムから聞いた場所ソルケヘサールに向かった。

アライーの運転する車は高速道路を走り、テヘランの東の外れを目指した。住宅が少なくなったころ。アライーは高速の出口とは思われないような小さな道を曲がった。舗装されていない道路であった。

「平山さん、ほら、あれ、歩哨がいるじゃないか」

岡野が見ている方向をみると、レンガ造りの塀の上に塔があり、そこには銃を持った兵隊がいる。

「この建物、怪しいなぁ。軍関係の施設なんじゃないか?」

平山は、アライーにそのままゆっくりと車を走らせるよう頼んだ。ゆっくりと言わなくても、舗装されていない道なので、車はのろのろとしか走れない。塀はずっとつながっていた。1kmくらいあるように思われた。

途中に大きな入り口が見えた。中に兵隊が見えた。それを横目に車はそのまま進んだ。ようやく長い塀が切れるところまで進むと、交差点に差し掛かった。平山は、アライーに左折して、建物の反対側を進むように頼んだ。

塀に囲まれたところは、三角形をしているようだ。車は来たときと反対方向に進んでいる。今度は舗装された大きな道路なので、ゆっくり走ってもらわないといけない。しばらく行くと、別の入り口があり、英語の看板が目に入って来た。それには、「航空関係コンプレックス」と書かれている。

「平山さん、やっぱりここらしいな」
「どうして英語で表記されているんだろ?」
「どうしてかな、外国からの兵器の受け入れをしているということだろうか」
「なるほど、ペルシャ語が読めない国の人のためか。まさか、米国じゃないだろうけどね」
「ロシア?あるいは北朝鮮?」
「そうかも知れないね」



平山のアパートから見えるアルボルズ山脈、テヘランの裏庭にある山のようだが、標高が3,000mを越える立派な山脈である。夏の1か月の間だけ雪が消えるので、今は荒々しい岩山の姿を曝している。

テヘランの北側は高級住宅地が多い。アルボルズ山脈の麓から平山のアパートまで、緑の海の中から白い高層建築物が生えているように見える。テヘランは土地バブル経済のようで、不動産の物価は極めて高い。東京と比べる訳にはいかないが、一般のイラン人の所得ではとても買えない価格である。

したがって、この地区には外国人が多く住んでいる。平山が朝起きて来ると、犬の鳴き声が聴こえてくる。イスラム教徒は犬を好まないはずだが、この地区では犬をペットとしてだけではなく番犬として飼っていたりするので、かなりの数の犬がいるようである。

(参考)テヘランの北に見えるアルボルズ山脈
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出勤前の平山がデスクに向かい、インターネットでメールチェックなどをしている。日本とは4時間半の時差である。秋分の日以降の時差は5時間半になる。半というのは聞きなれない時差だろうが、実際テヘランの位置が時間変更ラインの丁度真ん中にあるのでそう決められたのであろう。

平山のアパートでは衛星放送が受信できる。平山はペルシャ語放送は理解できないので、毎朝ユーロニュースを見ることにしている。日本のニュースはインターネットで見ることにしていた。米国がイラクを攻撃したときには、日本のニュースとユーロニュースの論調がかなり違っていた。ユーロニュースではかなり批判的な論調だったのに対して、日本のメディアは米国に賛同するものが多かった。

平山は日ごろから感じている。イランの人々はたいへん個性が強く、繰り返し自己主張する。会議では、他人の意見を聞いているようには思えないのだが、他人が意見を述べている間は大人しくしている。平山は、イラン人の喧嘩をあまりみたことがない。日本人の方が怒りっぽいと思っている。

平山は暴力で暴力を抑えることはできないと思うし、イラクのような国に米国が入り込んだら、ますます混乱が拡大するだろうと思っている。戦争を仕掛ける前にもっと国民性を学んでおけばいいと思うのだが、今となってはもう遅過ぎる。米国は泥沼のような戦いに突入してしまった。

イラン人については一言では語れない。親切な人、権威主義な人、儲け主義の人、温厚な人、策略の好きな人、などなど本当に多様である。強いて分類するとすれば、貧しい人々、高学歴の中産階級、お金持ちということになるだろうか。貧しい人たちに政府は割り合い手厚い政策をとろうとしているが、貧しさから脱出させられるところまでは来ていない。

平山には、学歴のある中産階級の人々が一番苦労しているように見える。高いポストにつけても政府で働くのでは給料が安いため、もう一つ別な仕事をしなければならない。学歴の低い人は、共働きをしないとテヘランでは暮らせないだろう。

一方、テヘランの大バザールのあるところは活気に満ちている。平山は、イラン人は商売をしているときが一番元気なのかも知れないと思った。バザールの中に店舗を構えられる商人はお金持ちだということを聞いたことがある。

航空関係コンプレックスの入り口に日産パトロールが止まった。運転しているのは、シルダム氏だった。そして車の中には平山、岡野、アツーサの姿が見られる。シルダム氏が守衛と何やらやりとりとすると、車はあっさりと中に入れられた。

平山たちは、シルダム氏の後をついて行き、軍の本部の建物に入った。シルダム氏は、受付でシャフィプール大佐との面会を求めてた。大佐はコンプレックスの責任者である。案内の人が現れると、シルダム氏一行を3階に案内した。

3階に上がると、そこは広いロビーになっていて、軍服を着た男性が二人働いていた。シルダム氏たち4人は、そこにあるソファーで待機するように言われた。待つこと約10分、大佐の執務室の扉が開いて中から軍服の人が出て来ると、秘書の一人に中に入るように促された。

執務室の奥にいたシャフィプール大佐だったが、シルダム氏をみつけると一行を歓迎した。大佐はシルダム氏との再会を喜んでいるようだった。

アツーサが一緒にいるのだ、重大な軍事機密であろうが、簡単なことである。アツーサが優しく依頼しただけで、大佐は未確認飛行物体の保管庫の鍵を出し、案内人の手配をした。4人は案内人に先導され、シャフプール大佐にお礼を言って部屋を出た。

重大な機密事項であるはずだが、歩哨で守られた施設の中の警備はないようだった。平山には、保管庫には鍵はあるが、それ以上の仕掛けがあるとは思えなかった。案内人が保管庫のライトを点灯した。棚と床にいろいろなものが置かれていた。一見、ガラクタが置かれているようにしか見えない。

4人はバラバラにミニ・シャトルを捜し始めた。シルダム氏にはミニ・シャトルのことは知らせていないので、シルダム氏はなんとなく見回っているだけだった。ミニ・シャトルは車二台くらいの大きさである。バラされていなければ簡単にみつかるはず。

平山が一番奥にあるシートの被せられたものをみつけた。シートをめくるとそこには紛れもなくあのミニ・シャトルがあった。特別な関心をみせないように、平山はその場所から離れて、岡野とアツーサのところに行き、囁いた。本当は声を上げて喜びたいところだったが、二人とも顔色を変えないように努力していた。

案内人に礼を言って、シルダム氏の車で航空関係コンプレックスを出た。シルダム氏がアツーサに訊いた。

「どう?目当てのものはあったのかい?」
「いいえ、ありませんでした」
「そうか、残念だったね」
「いいえ、ご協力に感謝します」
「お安い御用だ。お役に立てれば良かったんだが」
「はい、またお願いします」
「ところで、空から降って来たものっていったい何なんだい?」
「私の実家の方で目撃されたものです。何かはよく分かりません」
「そうか、どこか他の場所に保管されているのかもな」
「はい」



「チャガタイさま、あいつら航空関係コンプレックスに入って行きましたぜ」
「やつらの仕事とは関係ないだろう。怪しいな」
「へい、そうなんで」
「それで、何かを持ち出したのか?」
「いいえ、そんな様子はありませんでした」
「情報収集かな、消えたミニ・シャトルの」
「そうかも知れませんね」
「やつらもミニ・シャトルを探しているのか、やはり盗掘されたようだ」
「へい、チャガタイさまの読みのとおりで」
「引き続きやつらの動きを監視していろ」
「へい」



「アツーサ、あのミニ・シャトル、飛べると思う?」
「さあ?」
「3,000年も経っているんだから、まぁ、無理だろうなぁ」
「・・・」
「あれを持ち出すには、クレーン付きのトラックで行かないといけない」
「そうですね」
「今回と同じように上手く行くかな」
「持ち出すとなるとどうでしょう」
「どこに持って行くかも問題だし、これは難題だなぁ」
「そうですね」
「でも、あそこにある限り安全と言えるのでは?」
「今のところは、そうですね」
「考えようによっては一番安全かも」
「そうでしょうか・・・」

このとき、自分たちの行動が弁髪のチャガタイを刺激してしまったことを二人は気がつきもしなかった。



「チャガタイさま、大変です」
「なんだ?騒がしい」
「軍事機密だそうです」
「だから一体何だって?」
「あの航空関係コンプレックスには未確認飛行物体の保管庫があるようです」
「なに!」
「ということは、あそこにミニ・シャトルがあるのか・・・」
「いや、そこまでは分かりませんが」
「分かるようだったら、あそこに眠っているということはないな」
「へい」
「しかし、軍隊が相手ではなぁ・・・ 警察なら何とかなるんだが・・・」

(つづく)

(注)こちらはフィクションですから人名など実在するものとは一切関係ありません。
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by eldamapersia | 2007-10-03 09:00 | 遥かなる遺産 Part4
マツダがコクピットでミニ・シャトルを操縦している。アリマは、スルガ艦長と一緒に船外活動中であった。ミソラは母船の中で彼らの活動を見守っている。太陽光が船外作業中の二人のヘルメットに当たり光彩を放っている。

「アリマ、どうだ、分かるか?」
「エンジンに不具合があるようには見えません」
「動力装置にも異常は見当たらなかったんだ。よく調べてくれ」
「はい、よく見てみます」
「このままでは帰還できないぞ」

その瞬間、異常な強さの太陽風が襲って来た。マツダは、計器類にしたたかに頭をぶつけてしまった。ミニ・シャトルは二、三回転したようだった。

「うわっ、何だこれは!」

母船は動じなかったが、ミニ・シャトルの外はもっと大変であった。

「艦長、アリマ、大丈夫ですか~!」

母船のミソラが、ミニ・シャトルを見ながら、マツダに通信して来た。

「マツダさん、大丈夫ですか?大変です。アリマさんが、気絶しています。艦長の姿が見えません」

マツダが、ミニ・シャトルの態勢を整えて船外を見ると、アリマがフワフワ浮いている。艦長の姿は見当たらない。よく見ると艦長の命綱が切れているのが見えた。スルガ艦長は、命綱が切れて宇宙空間に飛ばされてしまったようだ。

マツダは、急いで気絶しているアリマを回収した。マツダは、アリマが気がつくのを見て、直ぐにスルガ艦長を追いかけた。

しかし、艦長は既に暗黒の宇宙空間に消え去ってしまっていた。ミニ・シャトルで追いかけてみたが、一度宇宙空間に放り出された艦長を見つけることはできなかった。ミニ・シャトルの航続距離にも限界があった。

「スルガ艦長~!」

大声を出しても真空の宇宙空間では音波は伝わらない。艦長を失い、エンジンの修復うまくいかないまま、ミニ・シャトルは母船に戻った。

「仕方がない、あの青い惑星に緊急着陸することにしよう」



目を覚ました平山は、アツーサが再び夢をみさせたものと確信していた。

「変な夢だが、一体何のために?ミニ・シャトルを操縦方法を知るために見せたのか?それにしても、宇宙船にいたのが3人ではなくて4人だったとは・・・」



平山はインターネットでメッセンジャーサービスを使い、岡野と話をしている。

平山:そんなような変な夢をみたのだが
岡野:ミニ・シャトルの操縦方法は分かったのかい?
平山:それはなんとなく分かった
岡野:4人いたとは、驚いたね
平山:スルガって何者だろうか?
岡野:その一人のことが伝承で残っているかも知れないな
平山:三人の話題にならない方が不思議だね
岡野:そういうことだ 今調べてみる

岡野は、インターネットで検索をかけて調べているようだ。

岡野:アリマがアーリマンなら、スルガはスールガンかな?
平山:ミソラがミトラなら、トールガンかな?
岡野:いや ダメだ どれも該当なしだ
平山:拝火教で調べてみるよ
岡野:そんな名前の神様いたかなぁ
平山:ないなぁ

二人は必死で検索機能を駆使して、文献を探した。

岡野:あった これだ
平山:なに?
岡野:ミトラ教を調べたらズルワーン教というのがでてきた
平山:それは近いね
岡野:マツダとアーリマンの親 マズダとアーリマンの仲介役 なんて書いてある
平山:艦長だったけどな
岡野:中国語では、無上光明王というそうだ
平山:全知全能の神扱いみたいだね
岡野:死んでしまった人ならそういう扱いを受けるということは十分にありうるな
平山:後世 ミトラ教、拝火教、ズルワーン教といろいろ出現した訳だ
岡野:アーリマンだけは悪役だね(笑)
平山:今の時代はアーリマンに支配されているのかも
岡野:そうかも知れないな

ここで、平山はふと閃いた。

平山:ということは、スルガ艦長のことを調べれば、アーリマンの暴走を食い止められるかも
岡野:やはり宇宙船に行かないといけないってことか
平山:スルガ艦長の能力を調べれば、戦争を防げるかも知れない
岡野:逆に考えれば、地球にスルガ艦長が来なかったのが悲劇の始まりということか
平山:これで三人が分かれた理由が分かったような気がするけど
岡野:偉大な仲介役がいなくなったからか
平山:そう思う
岡野:三人分散の必然説はボツかな(笑)



「チャガタイさま、あいつらトラックをレンタルしようとしてますぜ」
「航空関係コンプレックスから出て来たところを待ち伏せるか」
「向こうにはアツーサがいますぜ」
「なーに、アツーサの目を見なければいいってことよ」
「見たらお仕舞い、またミニ・シャトルのゴーストをもらっちまう」
「嫌なことを思い出させるな」
「へい」
「ミニ・シャトル、米国かロシアに売れば儲かるぞ」
「そうですか?」
「知らない技術がいっぱい詰まっているんだ。1億ドルでも売れるだろうよ」
「うひゃぁ、すげぇ!」
「それにしても、モンゴルの伝承が本当だったとはなぁ・・・」
「へい、驚きです」
「それじゃ、行くぞ!」



運転手付きのレンタル・トラックで三人は、航空関係コンプレックスに向かった。こうなったら、仕事どころではない、世界の平和がかかっているのだ。

トラックが入り口に着いた。アツーサが守衛と話をすると、簡単にトラックは中に入れた。シャフィプール大佐のオフィスに直行する。大佐は不在だったが、秘書がいればどうにでもなる。ここでもあっさりと保管庫の鍵を手に入れた。

三人は保管庫に向かった。航空関係コンプレックスの入り口にはチャガタイの車が到着していた。チャガタイは、平山たちのトラックが出て来るのを待ち伏せする気でいる。

三人は保管庫の鍵を開けてライトを点けると、真っ直ぐにミニ・シャトルに向かった。平山がカバーを外すと、ミニ・シャトルは埃を被っているせいだろう、くすんだ灰色にみえた。

「ミスター・平山、動くかどうか調べてみましょう」
「そうだね、一応調べてみようか」
「ちょっと待ってね」

アツーサは、平山の目をじっと見据えた。平山は、簡単にミニ・シャトルの入り口を開けた。まったく扉など見えなかったところが開いたのだ。アツーサは、平山にマツダになりきれるように催眠をかけたのだった。

三人はミニ・シャトルに乗り込んだ。ミニ・シャトルには三人しか搭乗できないようだ。母船に常時一人が残る必要があるため、三人で十分ということなのだろう。平山が操縦席に座った。岡野とアツーサは後部座席である。

平山が操縦を試みると、ミニ・シャトルがフワリと浮かんだ。反重力装置が作動いているようだ。ミニ・シャトルは浮いたまま静かに前進した。

「やったね、3,000年前のマシンがちゃんと動いている!」
「平山さん、どこに行くのですか?」
「決まっているじゃないか、カスピ海さ」

ミニ・シャトルは高く舞い上がった。地上ではこれを目撃した兵隊たちで大騒ぎしている。チャガタイもこの騒ぎに気がついて、車から出たが、もう後の祭である。ミニ・シャトルが飛び去る姿を見送るしかなかった。

「くそぉ!やつら、ミニ・シャトルを動かせたんだ!」

ミニ・シャトルは一気にアルボルズ山脈を越えて飛んだ。平山には、どういう仕組みなのかさっぱり分からないが、コクピットからの外の眺めは良好であった。

「アツーサ、宇宙船の位置は分かるかな?」
「今、調べています」

アツーサは後部座席から、コクピットにある計器をみている。

「その丸いレーダーみたいなのはどうでしょうか?」

平山が、スイッチを入れると黄緑色の光点が映し出された。

「ビンゴ!やったね、それが母船の位置だろう」
「平山さん、すごいね」、岡野が感心して言った。
「今の平山さんは、マツダですからね」、アツーサが微笑んで言った。
「それでは、着水の後、潜行しまーす」、平山の声は弾んでいる。

ミニ・シャトルは着水のため軽い振動を受けたが、順調であった。

「それでは、潜水して目標物に直進しまーす」、平山は快調であった。

ミニ・シャトルはどんどん深く潜行して行った。カスピ海の水深は、だいたい200mだが、深いところでは600mもある。水深の浅いうちは、太陽光のお陰で水中がよく見えたが、水深が増すにつれて暗くなって来た。

カスピ海は、アゼルバイジャン国の辺りで深くなっているようだ。ミニ・シャトルの水深は400mを超えている。

「そろそろ見えてもいい頃だが・・・」、と平山が言った。
「少し暗くなって来たね」
「湖底が見えて来ました」、とアツーサが言った。

薄暗いが湖底がなんとか見える。しかし、宇宙船の姿はなかった。

「おかしいなぁ、この先真っ直ぐのところにあるはずなんだが・・・」

平山は湖底にぶつかりそうになるまでミニ・シャトルを近づけた。しかし、それでも宇宙船の姿は見えない。そのとき、岡野が呟いた。

「ということは、宇宙船は湖の下ってことか・・・」

平山は、ミニ・シャトルの船首を上げて、Uターンした後、もう一度、黄緑色の光点を目指した。しかし、今度も見えたものは湖底でしかなかった。

(つづく)

(注)こちらはフィクションですから人名など実在するものとは一切関係ありません。
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by eldamapersia | 2007-10-03 07:00 | 遥かなる遺産 Part4
平山たちは宇宙船に接近できたが、3,000年もの年月は、カスピ海の湖底に厚い土砂の堆積をもたらしていた。ミニ・シャトルがあっても、これではどうすることもできない。宇宙船に到達するためには、海底油田の採掘ができるような設備がなければ不可能である。

ミニ・シャトルはカスピ海の水面に浮上した後、再びフワリと空中に浮いた。平山、岡野、アツーサの三人は無言であった。三人はそれぞれの物思いにふけっているようだった。ミニ・シャトルはアツーサの実家に向かった。そして、静かに玄関の前の広い庭に降り立った。

「平山さん、これからどうする?」、岡野が訊いた。
「まだ分からない」
「ミスター・平山、ミニ・シャトルを隠さないといけないんじゃない?」
「いずれ軍隊が発見するだろうな」
「ここにいてもしょうがないから、家の中に入って考えましょう」

三人は家の中に入った。突然の来訪にアツーサの両親は驚いたが、直ぐに笑顔を見せて三人を迎えた。

「平山さん、まだ宇宙船のことを考えているの?」
「いや、あれはもう諦めるしかないでしょう」
「じゃぁ、ミニ・シャトルのこと?」
「うん、どうすべきかってね」
「隠すしかないんじゃないの?」
「・・・」

その時、家の電話が鳴った。アツーサの父親が電話に出た。電話は、先日のカリムの誘拐犯からだった。ミニ・シャトルを渡さないと、カリムの命がないと脅かしてきているようだ。アツーサが父親に何か言っている。

「平山さん、ミニ・シャトルを渡すと答えました」
「アツーサ、そんなことをしていいのか?あれには現代にない科学技術がいっぱい集積されている、悪用されたらそれこそ大変だ」
「無傷で渡すとは言いませんでした」
「え!」
「あれがある限り、誘拐犯は何度でも狙って来るでしょう」

(参考)カスピ海
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アツーサの強い決断に押されて、みんなは準備に掛かった。父親に頼んで爆薬を手に入れ、ミニ・シャトルをカスピ海に浮かべた。ミニ・シャトルの中には大量の爆薬が仕掛けられた。無線の起爆スイッチは、アツーサの手の中にある。ミニ・シャトルは次第に陸から離れていった。

準備ができてから1時間も経たないうちに、先日の誘拐犯であるチャガタイと二人の男が浜辺にやって来た。彼らはカスピ海に浮かんだミニ・シャトルをみつけたようだ。しかし、必死でアツーサを見ないようにしている。アツーサが叫んだ。

「危ないよ!」

アツーサが起爆スイッチを押した。ミニ・シャトルの内部からの爆発である。ミニ・シャトルは粉々になって飛び散った。

「なんてことをするんだ」、チャガタイが叫び、持っている拳銃をアツーサたちに向けた。

「ぶっ殺してやる」

銃声が聞こえた。倒れたのはチャガタイであった。二人の男たちは逃げ出した。

「何があったんだ?」と岡野。
「私を見ないで撃てるはずがないでしょ」とアツーサが涼しい顔をして言った。
「他の人を撃つとは考えなかったの?」と平山。
「血がのぼれば、私を見るに決まっています」

チャガタイは死んだ訳ではなかった。アツーサが気絶させただけである。

アツーサが言った。

「その弁髪男を家に連れて来てください。完全に記憶を消してあげるから」
「うひゃぁ、怖い、怖い」と小声で岡野。
「ミスター・岡野、何か言いましたか?」
「いや、何でもありません」



テヘランに戻った平山と岡野が話をしている。

「平山さん、せっかくのミニ・シャトルだったけど惜しかったねぇ」
「どうだろうか、あれでよかったんじゃないかな」
「科学技術の進歩に貢献するだろうに」
「悪用されたら大変だ」
「平山さんは、ガリレオを認めない宗教者みたいかな」
「いや、自分たちで開発した技術ならまだしも、1,000年も2,000年も未来の科学技術なんて相当危険な代物になるだろう」
「そっか、我々がスルガ艦長、いや、ズルワーンの知恵を獲得するまでは危険過ぎるということか」
「残念ながら、それまでは戦争を避けることができないかも知れない」
「人類が賢いということを信じることにしよう」



平山のオフィスでは、アツーサがいつものように珈琲を淹れている。軍隊はミニ・シャトルを盗まれても騒ぎ出さなかった。平山は、シャフィプール大佐が自分の責任問題になるのを恐れて、もみ消したのかも知れないと思った。

「アツーサ、ところで本物のミニ・シャトルはどこに隠したの?」
「え!ミスター・平山、どうして分かったんですか?」
「そりゃぁ、アツーサの考えていることくらい分かるよ」
「あらま、そうですか。うまくやったつもりだったんですけど」

(Part4 おわり)

(注)こちらはフィクションですから人名など実在するものとは一切関係ありません。
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by eldamapersia | 2007-10-03 06:00 | 遥かなる遺産 Part4